【 番外編】星を閉じ込めた水瓶

チリリ スイングベルが音をたて小さな客人が入ってきた。 「良い夜だね！」 「やぁ良い夜だね。」 光る石や鳥の羽を拾ったと言っては見せにくる数少ないこの店の常連だ。 綺麗な物があったらまた持っておいでとその度に頭を撫でてやる。 「こんな夜遅くに· · ·」 「見せたい物があるの！」 私が咎めるのを言い終える前に 袖口を引っ張り、店の外へ誘導する。 どうやら今夜は時間制限付きのお宝を見つけたようだ。 私が店の鍵を掛け終わると直ぐに手を引っ張り急ぎ足で歩いて行く。 「すぐそこの丘だよ！」 それだけ言うと星が輝く夜道を丘の上へと登って行く。 丘の上にはかつて大きなお屋敷があったが 今は永らく住む人も無く子供達の格好の遊び場になっていた。 その子は屋敷の一画に私を連れて来た。 そこには主がいなくなってもこんこんと水が湧き出す水場があるだけだ。 「ここだよ！見て！」 その子が指差す方を見やる。 そこには朽ちた水瓶らしき物が湧き出る水を静かに受け入れていた。 瞬間ーーー私はその美しさに息をのんだ。 水瓶は宙の星々を映し神秘的なまでの輝きを放っている。 「どうしてもお店に持っていけなくて· · ·」 でも見せられて良かったと笑顔を向ける子に私も微笑む。 「少し待っておいで。」 懐から小さな革袋を取り出すと中から小ぶりな石を取り出した。 それをどうするの？と不思議そうに覗き込む子を押しとどめ小さく御呪いを呟き小石を水瓶へ投げ入れる。 途端に二人は一瞬目が眩む程の光に包まれた。 気がつくと水瓶の中は干上がったかのように一滴も水が無く 底に投げ入れた石だけが転がっていた。 拾ってごらんと言うと恐る恐る取り出し手の上に乗せ覗き込む。 「わぁ· · ·！まるでさっきのキラキラを石が全部吸い込んじゃったみたい！」 「さぁこれを持って今夜はお帰り。」 それを聞いた子はそっと私の手に石を預けた。 「もともとこれはお店に持って行こうと思ってた物だから！」 いつものように頭を撫でてくれと言う子に応じてやると満足そうに頷きじゃあねと手を振って帰ってしまった。 「次に来た時はいつもより少し多めに撫でてあげようか」 満天の星空はいつまでも私の手の中にあった。