いつもなら、そろそろ眠りにつく時間です。
けれど今夜、黒猫はちっとも眠くなりませんでした。
窓の向こうで、街の灯りがゆらゆら揺れています。
玄関先には、にっこり笑うかぼちゃ。
通りには、オレンジ色のランタン。
見慣れた街なのに、今夜だけはどこか遠い国のよう。
影はいつもより長く伸び、風に揺れる木の枝は、秘密をささやいているようでした。
黒猫は窓辺に前足をかけ、耳をぴんと立てました。
遠くから、子どもたちの笑い声。
どこかで鳴る鈴の音。
甘いお菓子の匂いに混じって、冷たい夜の空気が流れてきます。
「あっちで、何をしているんだろう」
好奇心が、胸の奥で小さく跳ねました。
黒猫はそっと玄関を抜け出し、大きなかぼちゃの上に飛び乗りました。
かぼちゃの表面はひんやりしていて、ランタンの灯りが丸い影を落としています。
見上げた空には、まんまるの月。
薄い雲が月の前を通り過ぎるたび、街は明るくなったり、少しだけ暗くなったりしました。
黒猫は一度だけ、家を振り返りました。
窓には、いつものあたたかな灯り。
あの灯りの中には、安心できる寝床と、帰りを待つ場所があります。
「少しだけ、見てくるね」
誰に言うでもなく、黒猫は小さくつぶやきました。
そして、かぼちゃから静かに降りました。
石畳を、こつん、こつん。
落ち葉を、かさり、かさり。
ランタンの灯りをひとつ、またひとつと目印にして、黒猫は歩き始めます。
角を曲がった先には、まだ見たことのない夜の景色が待っているかもしれません。
もしかしたら、空を飛ぶものや、影の中に隠れているものにも出会えるかもしれません。
黒猫のしっぽが、期待に揺れました。
こうして、ハロウィンの夜の小さな冒険が始まります。
――第2話へ続く。
https://minne.com/@komorebi-dp/letters/135541
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