「この子は、ここじゃな」
妖精が地図の一点を指さした。
サンタは眼鏡を少し上げて、
その場所をじっと見つめた。
遠すぎるわけではない。
いつもの配達ルートを少し変えれば、
立ち寄ることはできそうだった。
「では、今年のルートに追加しておきますね」
妖精がスマートフォンを操作する。
画面には、最短の道順がすぐに表示された。
「便利になったもんじゃなあ」
サンタは感心したように言った。
けれど、どこか少し寂しそうでもあった。
昔は、大きな紙の地図を机いっぱいに広げて、
「この山を越えて……」
「この村の煙突は細かったな」
「去年はここで雪に埋もれたぞ」
なんて話しながら、
みんなでルートを決めたものだった。
道を間違えたこともある。
吹雪で予定より遅れたこともある。
届ける家を探して、
夜空を何度もぐるぐる回ったこともあった。
今なら、そんな失敗はほとんどない。
場所も分かる。
時間も分かる。
一番早い道だって、すぐに教えてくれる。
それなのに。
サンタは、机の上の古い地図をそっと撫でた。
「昔の方が、楽しかった気もするのう」
妖精が不思議そうに首をかしげた。
「大変だったんでしょう?」
「そりゃあ、大変じゃった」
サンタは笑った。
「じゃが、大変だったからこそ、
よく覚えとるのかもしれんな」
サンタは立ち上がると、
窓の外を見た。
雪は静かに降り続いている。
厩舎ではトナカイが、
そろそろ出番だと言わんばかりに
鼻を鳴らしていた。
サンタは赤い帽子をかぶり直した。
「さて」
そして、机の端に置いていた
あの手紙をポケットに入れた。
「今年は少し、寄り道をしてみるか」
妖精たちが顔を見合わせる。
いつものクリスマスとは、
ほんの少し違う夜が始まろうとしていた。
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