家の前には、魔女が立っていました。
帽子は少し傾き、髪には小さな葉っぱがついています。
ほうきも壁に立て掛けたまま。
その上で、コウモリが羽を休めていました。
黒猫を見つけると、魔女は階段を駆け下りました。
黒猫も走りました。
いつもなら立ち止まって匂いを嗅ぐ植木鉢も、今夜は通り過ぎます。
魔女の腕に抱き上げられた途端、黒猫は顔をその胸に押しつけました。
「どこまで行っていたの」
声は少し厳しかったけれど、抱く腕はいつもよりしっかりしていました。
黒猫は、小さく鳴きました。
街の灯りを見たこと。
自分の影に驚いたこと。
コウモリに道を教えてもらったこと。
話したいことは、たくさんありました。
でも今は、喉の奥からごろごろと音が出るばかりです。
お菓子屋のおばあさんが、門のところで笑いました。
「お店の前にいたのよ。帰り道を思い出したみたい」
魔女は何度もお礼を言いました。
おばあさんは、ポケットの包みを差し出しました。
「探し回って、お疲れでしょう。これを食べて、ひと息ついて」
紫のリボンが結ばれた、小さな包み。
魔女が開くと、少し欠けたかぼちゃのクッキーが二枚入っていました。
「形は悪いけれど、味は同じだからね」
魔女は笑いました。
黒猫はその顔を見て、ようやく耳をまっすぐ立てました。
コウモリは、ほうきの上から飛び立ちました。
「それじゃあ、僕も帰るよ」
黒猫は魔女の腕から顔を出しました。
「また会える?」
「かぼちゃ畑にいるよ。次は、帰り道を覚えてからおいで」
魔女が黒猫の頭を、指先で軽くなでました。
「それと、出かける前に私にも知らせてね」
黒猫は今度こそ、はっきり鳴きました。
おばあさんとコウモリを見送って、二人は家に入りました。
魔女はお茶をいれ、黒猫はいつもの寝床に丸くなりました。
窓の外では、オレンジ色のランタンが夜風に揺れています。
小さな炎は、まるで眠らない星のように、石畳や家々の壁へやわらかな光をこぼしていました。
紫色の影がその光に重なり、街全体が、夢の中へ続くハロウィンの景色に変わっています。
あの灯りの向こうには、今夜できた友だちがいます。
遠くの窓辺にも、かぼちゃのランタンや蝋燭の明かりがぽつぽつと浮かび、誰かの帰りを待つ小さな星のように瞬いていました。
黒猫は窓を眺め、それから魔女を見ました。
次に出かける時は、一緒に歩こう。
自分の影が大きくなる街角も、お菓子屋さんの窓も、今度は魔女に見せたいのです。
黒猫は目を閉じました。
窓辺から差し込む橙色の光が、丸くなった背中をそっと包みます。
夢の中ではもう、かぼちゃ畑へ続く道を覚えていました。
その道の先には、月明かりとランタンの光が重なり、あたたかな夜が静かに待っていました。
――おしまい。
*物語の続きを、あなたの手元で*
黒猫が歩いた街、出会ったコウモリ、お菓子屋さんの窓。
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