小さな影を追いかけて、黒猫は街外れのかぼちゃ畑まで来ました。
ここには、通りのような賑やかな声はありません。
風が吹くたび、かぼちゃの大きな葉がこすれ合っています。
さっきの影は、どこへ行ったのでしょう。
黒猫が鼻をひくひくさせると、頭の上から声がしました。
「そんなに下ばかり見ていたら、見つからないよ」
見上げると、柵に一匹のコウモリがぶら下がっていました。
黒猫は思わず、一歩下がりました。
「きみだったの?」
「そう。ずっと僕についてきていたでしょう」
コウモリが羽を広げると、黒猫の耳が横に倒れました。
近くで見る羽は、思っていたより大きかったのです。
「……僕を、どこかへ連れていくつもり?」
コウモリは、きょとんとしました。
「僕は帰ってきただけだよ。ここが僕の家だから」
黒猫は、立てていたしっぽをそっと下ろしました。
自分が勝手についてきたのに、相手を怪しんでしまったのです。
「ごめん。今夜の街は、知らないものばかりで」
「それなら、僕から見ても同じだね。かぼちゃ畑に猫が来るなんて、珍しいもの」
二匹は顔を見合わせました。
黒猫は少しだけ、肩の力が抜けました。
けれど、静かになった畑には、さっきまで気づかなかった音が聞こえてきました。
遠くで、何かが葉を踏むような音。
風のせいかもしれません。
それでも黒猫は、耳をぴんと立てました。
「街へ戻る道、わかる?」
そう聞かれて振り返ると、かぼちゃの葉に隠れて、入ってきた道が見えません。
右にも、左にも、同じような柵。
どちらへ進めばいいのか、わからなくなっていました。
黒猫は黙ってしまいました。
帰り道が見つからない不安と、まだ知らない何かに出会えるかもしれない期待が、胸の中で入り混じります。
コウモリは柵から飛び立ち、畑の上を一周しました。
その羽音が遠ざかるたび、黒猫は空を見上げました。
コウモリが戻ってこなかったら、ここでひとりになってしまう。
そう思ったとき、月明かりの中に小さな影が戻ってきました。
「あっち。灯りが三つ並んでいるところだよ」
空からなら、道が見えるのです。
黒猫はほっとして、教えられた方へ歩き出しました。
かぼちゃの間を抜けるたび、遠くの灯りが少しずつ近づいてきます。
そのときでした。
コウモリが急に羽ばたく向きを変えました。
羽音が止まり、畑の上に短い静けさが落ちます。
黒猫も足を止めました。
「どうしたの?」
コウモリは月の方を見たまま、低い声で言いました。
「おや。今夜は、空にもお客さんだ」
黒猫が見上げると、月のそばを、長いほうきに乗った影が横切っていきます。
風が強くなり、黒猫の毛がふわりと揺れました。
影は一度、月の前で大きくなり、それからゆっくりと遠ざかっていきます。
黒猫には、そのとんがり帽子に見覚えがありました。
――第4話へ続く。
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*かぼちゃも、コウモリも、物語の登場人物*
セットには、この場面のイラストに加えて、かぼちゃ柄やコウモリ柄のデザインペーパーも入っています。
小さなお菓子袋やラッピングの帯にして、黒猫が出会った夜の景色を楽しめます。
黒猫のハロウィンセットは、ギャラリーからご覧ください。
https://minne.com/items/46432277