裏国分寺に雨が降ると、普通の場所より“影の音”がよく聴こえる。
りゃんシーは軒下で、濡れたくうかいをタオルで拭きながら言った。
「ほら、毛が水吸うんだからさ。カムイの遣いだろ、おまえ」
「ぼくは熊の子だもん……雨は好きだけど、冷えるんだよ」
そのとき、あたりの影がざわり、と揺れた。
雨粒に紛れて、黒い“影雫”が地面に落ちている。
影雫は、夜の住人たちのため息が固まったもので、
放っておくと増えてしまう。
りゃんシーはしゃがみ込み、小瓶を差し出した。
「はいはい、吸わせてやるよ。飲みたいだけ飲め」
影雫たちは、瓶に向かって静かに溶け込んでいく。
最後の一滴が落ちると、町が少しだけ軽くなった。
「ねぇりゃんシー」
くうかいが言う。
「雨の日って、裏国分寺のみんな、ちょっと泣きやすいよね」
「……まあ、俺もだよ」
雨音にまぎれたその言葉は、誰にも聞こえなかった。