BLUE MEMO – Wednesday Column Vol.6
「希望は、小さな種の姿をしている」


BLUE MEMO – Wednesday Column Vol.6
「希望は、小さな種の姿をしている」


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「希望は、小さな種の姿をしている」
  生きていると、すべての希望が断たれたように感じるときがある。自分のもっているすべての光が消え、どこへ向かえばいいのかもわからない。過去と未来のあいだに広がる、ぽっかりとした暗闇をとぼとぼ歩く。進む先には何も見えず、なのに世界だけが自分を置き去りにして遠ざかっていくような気がする。  それでも僕たちは生きている。必死に、ときに絶望に抗いながら――心のどこかに埋まっている“希望の種”を見つけるために。 「希望の種は、過去に埋もれている」
   絶望から救いだしてくれる希望の種は、いつも未来にあるとは限らない。ときには、過去に埋もれた小さな種をもう一度見つけだすことから始まる。  たとえば僕がこうして文章を書いているのも、特別な賞をもらったからでも、湧き上がる情熱があったからでもない。むしろ自分の思いを文章で表現するのはずっと苦手だった。  きっかけとなったのは小学4年生のときの記憶だ。授業の中で、ちょっとした短い小説を書く課題がでた。授業の後半には、先生がいくつかの作品を匿名で読み上げてくれるのだが、その中で僕の作品も選ばれていたのだ。僕は平然を装っていたけれど内心では胸の高鳴りが止まらなかった。
あのとき感じた喜びが小さな種として、ひそかに心の奥に存在していた。  絶望に包まれていたある時期、僕はその記憶を見つけて暗闇の中で手を伸ばした。
手にした種はとても小さくて、これから長い年月をかけ大切に育てていくことを想像すると気が滅入るほどだった。それでも僕はその小さな種にわずかながら希望の光が見えた気がした。 「小さな種に息吹をあたえ、光にかえる」
  最初から、大きい種を見つけられる人なんて、きっとほんのわずかだ。
僕たちが見つけることのできる希望の種は、儚いほどに小さい。多くの種は気づかれないまま土の中に埋もれている。そんな見落としてしまいそうなその種に、残された希望をかけて手を伸ばすしかない。  誰かにかけてもらったひと言、胸が高鳴ったほんの一瞬、わずかに嬉しかった記憶――
そんな、日々の中で見過ごしてきたような断片が、最初の種になることがある。  掘り起こした種にやさしく土を払い、手のひらで温めて息吹をあたえる。「早く咲いて」と焦ってしまえば、その希望は、まだ根を張る前に枯れてしまうかもしれない。 ――だからやさしく、丁寧に、ゆっくりと。
   やがてその種は思いもよらないときに芽を出し、光を放ちはじめるかもしれない。その光はきっと、次の扉まで導いてくれる心強い灯火になる。 僕はそんな希望を小さなよりどころにしながら、これからも小さな種をゆっくりと丁寧に育てながら生きていきたい。 ーーーーーーーーーーー 「BLUE MEMO – Wednesday Column」 週の真ん中、水曜日。ちょっと肩の力を抜いて、リラックス。そんなコラムをお届けします。
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