ハンドメイドマーケット minne(ミンネ)
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思い出の色の印刷所 《お話つきピアス》

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思い出の色の印刷所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「思い出の色の印刷所はここですか?」 わたしは古びた印刷所の奥に声を投げかけました。 さびれた町工場の片隅にあるその印刷所からは、古い印刷機がガタガタと繰り返し何かを刷る音だけが響いていたものですから、わたしは誰に話しかけていいかわからなかったのです。 「思い出の色の印刷所は、ここですか?」 もう一度投げかけると、 「いらっしゃい。」 くりくりのカールあたまをした主人が現れました。腕まくりをしたその無骨な手には、おそらく印刷所で使ったであろう色々なインキがついていました。 そのインキの色は洗えばすぐに取れそうでもあり、また永遠にそこにへばりついているかのようでもありました。 「少々手間がかかりますがね。」 そういって、主人はわたしを印刷所の奥へと案内しました。 連れて行かれたのは、古びた印刷機の前でした。 それは大きな印刷機で、何十年も前の鋼が使われているようでした。 細長いコロのようなものがいくつも組み合わさって、筒型や丸型とネジでできた、小さな城のようでもありました。 工場の片隅で、そこだけ淡くスポットライトが当たっているかのように、鈍く銀色に光っていました。 「刷りたい思い出を心に浮かべて、これを動かしてごらん。こういう具合にね。」 主人はそう言うと、印刷機のレバーを上下に動かしてみせました。 ガタン、という音とともに、コロの手前の掃き出し所へ、オレンジとピンクの混ざった明るい色が刷られた紙が出てきました。 「これは昨日の思い出だな。 昨日は孫と遊んだんでね。 随分とにぎやかなオレンジだなこりゃあ。」 恥ずかしそうに主人は頭をかきました。 「最近の思い出は浅い色で、昔の思い出ほど深い色で出るんだよ。さあ、あんたの番だ。」 わたしは印刷機の前に立って、心を集中させると、レバーを握って動かしました。 ガタン、というぎこちない音とともにコロが回りました。 掃き出し所に出された紙には、深い紺色が現れていました。 わたしが二度、三度とレバーを動かすと、その度に紙の紺色は濃くなっていきました。 どこまでも深い海が続いていくような、果てのない青色でした。 さらに続けてレバーを動かすと、湖を小舟が通る軌跡のように、淡い水色が滲んでいきました。   その、ガタンガタンという音を聴いているうちに、なぜか次から次へと涙があふれてきて、気づけばわたしは泣いていました。 「随分と綺麗な青だね。こりゃあ研ぎ澄まされてる。瞑想とか、そういう類いのものかな。当たりだろう。」 「ピアノです。」 わたしは答えました。 思い浮かべていたのは、わたしがはじめてピアノを弾いた時の思い出でした。 「音楽か。なるほど。」 主人は続けました。 「人の心にはね、水辺があるんだよ。 心の中に沸き起こる色々な感情は、風になったり雨になったりする。 そして湖の上を遊んでさざ波を立てたり、波紋をつくったりするんだ。 深く感動したときには心の奥に手を突っ込むように、湖の底の泥をなめらかに撫でたりもする。 あんたはピアノを聞いた時、その水辺にはじめて立ったんだ。 自分の心の中の景色を見た。 そのときの思い出だね。」 彼が言ったことは、当たっているというより、まるではじめからわたしの中にあったようで、欠けていた何かがぴたりとはまったようでした。 あなたは一体誰ですか。 という言葉を飲み込んで、わたしはレバーに手をかけ、最後にゆっくりガタンと下ろしました。 海の底のような青に、ため息のような水色をまとった紙が、刷り上がりました。 わたしはそれをぐるぐると巻くと、 主人からもらった細長い筒に入れました。 思い出の青い紙の入った筒を手に、わたしは印刷所を後にしました。 雨が降りはじめました。 ——— お話を添えて、お届けするピアスです。 最後に入れている写真は過去の別の作品でのお話台紙です。 仕様は変更になる可能性もありますので 参考としてご覧ください。 ピアスも、お話も、この世にひとつの 一点ものとなっています。 存在感のあるウッドビーズと メキシコの陶製アクセパーツや 透明ビーズなどの異素材を組み合わせて作ったピアスです。 大ぶりサイズなので マスク生活で顔まわりが さみしくなりがちなこの時期にも おすすめです。 また、マスクのつけはずしの際にも絡まりづらいような、形やフックの仕様にしています。 お話の冊子を準備する時間として 発送まで1週間程度をいただくことになると思いますが、何卒ご了承ください。 サイズ:6.5cm (ピアスフック含む長さ)
思い出の色の印刷所 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「思い出の色の印刷所はここですか?」 わたしは古びた印刷所の奥に声を投げかけました。 さびれた町工場の片隅にあるその印刷所からは、古い印刷機がガタガタと繰り返し何かを刷る音だけが響いていたものですから、わたしは誰に話しかけていいかわからなかったのです。 「思い出の色の印刷所は、ここですか?」 もう一度投げかけると、 「いらっしゃい。」 くりくりのカールあたまをした主人が現れました。腕まくりをしたその無骨な手には、おそらく印刷所で使ったであろう色々なインキがついていました。 そのインキの色は洗えばすぐに取れそうでもあり、また永遠にそこにへばりついているかのようでもありました。 「少々手間がかかりますがね。」 そういって、主人はわたしを印刷所の奥へと案内しました。 連れて行かれたのは、古びた印刷機の前でした。 それは大きな印刷機で、何十年も前の鋼が使われているようでした。 細長いコロのようなものがいくつも組み合わさって、筒型や丸型とネジでできた、小さな城のようでもありました。 工場の片隅で、そこだけ淡くスポットライトが当たっているかのように、鈍く銀色に光っていました。 「刷りたい思い出を心に浮かべて、これを動かしてごらん。こういう具合にね。」 主人はそう言うと、印刷機のレバーを上下に動かしてみせました。 ガタン、という音とともに、コロの手前の掃き出し所へ、オレンジとピンクの混ざった明るい色が刷られた紙が出てきました。 「これは昨日の思い出だな。 昨日は孫と遊んだんでね。 随分とにぎやかなオレンジだなこりゃあ。」 恥ずかしそうに主人は頭をかきました。 「最近の思い出は浅い色で、昔の思い出ほど深い色で出るんだよ。さあ、あんたの番だ。」 わたしは印刷機の前に立って、心を集中させると、レバーを握って動かしました。 ガタン、というぎこちない音とともにコロが回りました。 掃き出し所に出された紙には、深い紺色が現れていました。 わたしが二度、三度とレバーを動かすと、その度に紙の紺色は濃くなっていきました。 どこまでも深い海が続いていくような、果てのない青色でした。 さらに続けてレバーを動かすと、湖を小舟が通る軌跡のように、淡い水色が滲んでいきました。   その、ガタンガタンという音を聴いているうちに、なぜか次から次へと涙があふれてきて、気づけばわたしは泣いていました。 「随分と綺麗な青だね。こりゃあ研ぎ澄まされてる。瞑想とか、そういう類いのものかな。当たりだろう。」 「ピアノです。」 わたしは答えました。 思い浮かべていたのは、わたしがはじめてピアノを弾いた時の思い出でした。 「音楽か。なるほど。」 主人は続けました。 「人の心にはね、水辺があるんだよ。 心の中に沸き起こる色々な感情は、風になったり雨になったりする。 そして湖の上を遊んでさざ波を立てたり、波紋をつくったりするんだ。 深く感動したときには心の奥に手を突っ込むように、湖の底の泥をなめらかに撫でたりもする。 あんたはピアノを聞いた時、その水辺にはじめて立ったんだ。 自分の心の中の景色を見た。 そのときの思い出だね。」 彼が言ったことは、当たっているというより、まるではじめからわたしの中にあったようで、欠けていた何かがぴたりとはまったようでした。 あなたは一体誰ですか。 という言葉を飲み込んで、わたしはレバーに手をかけ、最後にゆっくりガタンと下ろしました。 海の底のような青に、ため息のような水色をまとった紙が、刷り上がりました。 わたしはそれをぐるぐると巻くと、 主人からもらった細長い筒に入れました。 思い出の青い紙の入った筒を手に、わたしは印刷所を後にしました。 雨が降りはじめました。 ——— お話を添えて、お届けするピアスです。 最後に入れている写真は過去の別の作品でのお話台紙です。 仕様は変更になる可能性もありますので 参考としてご覧ください。 ピアスも、お話も、この世にひとつの 一点ものとなっています。 存在感のあるウッドビーズと メキシコの陶製アクセパーツや 透明ビーズなどの異素材を組み合わせて作ったピアスです。 大ぶりサイズなので マスク生活で顔まわりが さみしくなりがちなこの時期にも おすすめです。 また、マスクのつけはずしの際にも絡まりづらいような、形やフックの仕様にしています。 お話の冊子を準備する時間として 発送まで1週間程度をいただくことになると思いますが、何卒ご了承ください。 サイズ:6.5cm (ピアスフック含む長さ)

サイズ

6.5cm

発送までの目安

7日

配送方法・送料

定形(外)郵便
300追加送料150円)
全国一律

購入の際の注意点

お話を添えて、お届けするピアスです。 最後に入れている写真は過去の別の作品でのお話台紙です。 仕様は変更になる可能性もありますので 参考としてご覧ください。 ピアスも、お話も、この世にひとつの 一点ものとなっています。 存在感のあるウッドビーズと メキシコの陶製アクセパーツや 透明ビーズなどの異素材を組み合わせて作ったピアスです。 大ぶりサイズなので マスク生活で顔まわりが さみしくなりがちなこの時期にも おすすめです。 また、マスクのつけはずしの際にも絡まりづらいような、形やフックの仕様にしています。 お話の冊子を準備する時間として 発送まで1週間程度をいただくことになると思いますが、何卒ご了承ください。 サイズ:6.5cm (ピアスフック含む長さ)
  • 作品画像

    緑のボタンとドロップビーズのピアス

    作家・ブランドのレビュー 星5
    ピアス届きました! とても素敵で、お作りもしっかりされており良い買い物が出来ました!ありがとうございました✨
    2022年4月26日
    by hachi-06
    ピアスとお話さんのショップ
    ピアスとお話からの返信
    この度はご購入どうもありがとうございました🌱気に入っていただけてとても嬉しいです! わざわざのお言葉、とてもはげみになります。 もし機会がありましたら、今後ともよろしくお願いします。
  • 作品画像

    ピアスとお話《オムニバス短編集》

    作家・ブランドのレビュー 星5
    昨日無事に届きました。素敵な本をありがとうございます。私自身、ピアスが好きなので、惹かれて購入しました。どのピアスも素敵だったし、そのピアスにまつわる、お話もどれも素敵なものばかりだったので、とても気に入りました。これからも頑張って下さい。
    2020年3月11日
    by korason
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