【店長・山下優 連載】本屋のABC 第7回「こんなとき、読みたい1冊」

青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる連載。お店づくりや本を売るための新しい取り組みなどについて綴っていただいています。今回は特別編として、挑戦したいとき、泣きたいとき...などテーマに合わせたおすすめの1冊を選書していただきました。ものづくりをする人に向けた1冊もご紹介いただいています。

選書させていただきました

あけましておめでとうございます。店長の山下です。
2回目の緊急事態宣言が出て、会社の方針もあり短縮営業になり、色々と厳しい状況ですが、前を向いて乗り切っていきたいです。

今回は年初めということもあり、「2021年もどんな状況であれ、すこしでも前向きに過ごしていけるように」といくつかのテーマを編集部からいただき、選書をしました。なにか漠然と読む 本を探しているときの一助になりましたら、うれしいです。


新年は目標を新たに突き進んでいこうという方も多いのではないでしょうか。
まずはこちらのお題から。

新しく何かをはじめたいときに読みたい本

西川美和『スクリーンが待っている』(小学館)

一貫してオリジナル作品にこだわってきた映画監督・西川さんが、初めて他人の小説をもとにした作品に臨む、映画の制作過程の出来事が描かれたエッセイ。

初めての原案の存在、初めて自分より若い助監督を迎えること、初めての俳優への依頼ややりとり、現在の状況下での新しい映画の伝え方。西川さんの感情の揺れ動きを通して、もちろん葛藤もあるけれど、先へ、一歩踏み出すんだという気持ちになる1冊です。

印象的な一文
ーー幸福な思い出も多く、全てが宝石のように大切にも思えるけれど、過ぎた幸福に浸っていると次を見出せない。(本書より)

続いては、「楽」を選んでしまいがちなすべての人に向けて。

自分にカツをいれたいときに読みたい本

佐俣アンリ『僕は君の「熱」に投資しよう ベンチャーキャピタリストが挑発する7日間の特別講義』(ダイヤモンド社)

投資家目線で、ポテンシャルはあるけどチャレンジしていなかったり、登るべき山が見つからずに悶々としている10代・20代に届けるべく、書かれた仕事論。

起業ではなくても、目の前の仕事でも何でも、何歳であっても熱を何かにぶつけることの大切さに改めて気づかされます。ついつい楽な方に逃げてしまうことがあるので、道を見失いそうになったら読み返したい1冊です。

印象的な一文
ーーほんとうに目指すべきゴールから逆算して「今やらなければいけないこと」というのは、実はものすごく少ない。(本書より)

続いては、落ち込んでいる時...

癒されたいときに読みたい本

頭がねじれるほど、考えてみたのですが、思いつきませんでした。本屋として、面目ないです。言い訳がましいですが、個人的には本や読書に癒しを求めていないことがよくわかりました。癒されたいときは、外から何かを取り入れるよりも、お酒を飲んだり、お風呂につかって、何も考えずに無になることが多いです。

無理に癒しを求めるよりも受け入れてみるのはいかがでしょう。

過去に開催した「絶望読書フェア」では「まだ立ち直れない絶望の期間におすすめの作品」を著者の頭木弘樹さんに31冊選んでいただきました。


続いては、泣きたいときに。泣いてすっきりしたい日もあるかもしれません。

泣きたいときに読みたい本

安田剛士『DAYS』(講談社)

サッカー未経験どころが運動神経もなかった、柄本つくし。孤独なサッカーの天才、風間陣。ふたりの少年が出会ったことから、高校サッカーに旋風を巻き起こす。

わたしは、「泣ける映画!」という宣伝文句をみてしまったら、その瞬間に観たくなくなってしまうような人間なのでためらいました。そんな?血も涙もない人間の自分が、サッカー部だったということを差し引いても、涙なしでは読めなかった漫画です。
競うことを凌駕する柄本つくしの優しさと努力によって、チームメイトを中心に、大きく変化していく人間と人間模様。自分で勝手に決めてしまった限界を超えてやり切ったからこそ見える風景を自分も見たいとも思わせてくれます。

印象的な一文
ーー無駄なんかじゃない あんたが頑張ってきたことはすべて​(本書より・同級生のマネージャーから柄本つくしへ)

最後に「minneとものづくりと」読者のみなさんに向けて。

ものづくりをする人におすすめの本

原野守弘『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』(クロスメディア・パブリッシング)

セールスマンとしてキャリアを積んだのち、34歳からクリエイティブの世界に転じた原野さん自身の試行錯誤の体験から、一般的なビジネスパーソンとクリエイターの間にある断絶の正体を解き明かし、クリエイティブな発想を持って働けるようになることを目的としたクリエイティブ入門書。

ブラックボックスのようにみえるクリエイティブな仕事の過程が公開されています。ビジネスパーソンのみならず、あらゆる仕事に活かすことができ、特にものづくりのためには必要なことがたくさん詰まっている1冊です。個人的にもふわっと感覚でしか理解できていなかったことが体系化され、足りない部分も見つかったので、本屋の今後に活かしていきます。

印象的な一文
ーー本書がフォーカスしているのは、何か新しいものをつくり出すために、今を生きるために、そしてクリエイティブな問いを立てていくために、必ず求められることになる「人間という生き物がもつ習性」の理解なのだ。(本書より)

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は新刊を中心に選んでみました。
本は読まれることで完成を迎えると思っています。もちろん、読む人が違えば完成形も異なります。移動や行動がし辛い現状ですが、本と読書はその先の広い世界や、まだ知らなかった知識や自分の感情に出会える最高なもののひとつだと思います。そのために、店舗でもオンラインでも、もっと本を届けることにこだわっていきたいです。

これからも、本屋=無意識を意識化できる場所であること、心地よい不便さについてなど、突き詰めていきたいと考えています。2021年もよろしくお願いします。

 

山下優
青山ブックセンター本店店長。1986年生まれ。2010年、青山ブックセンター本店入社。アルバイトを経て2018年11月に社員になると同時に店長に。
山下優Twitter:https://twitter.com/yamayu77
青山ブックセンター本店 公式HP:http://www.aoyamabc.jp/store/honten/
 

書き手 / 山下優
プロフィール写真 / 植本一子
編集 / 西巻香織