桜の骸

　その胸飾り(ブローチ)を見つけたのは、只の偶然だった。 　公務に同行する形で訪れた異国は見る物、聞く物全てが新しく、己の無知を突き付ける。彼が祖国に残してきた者を忘れ、新たな世界に没頭するのにそれほどの時間は掛からなかった。 　その日も、名ばかりの公休を利用して図書館と職人のもとを訪れ、帰宅予定を大幅に過ぎた帰り道だった。逢魔が時―ふと、そんな言葉が頭を過るような、真っ赤な夕暮れの道。普段通ることのない小道に、その古道具屋はあった。普段なら足を止めることもないそんな店だったが、妙に気になって古びた格子の展示窓（ショウウィンドウ）を覗き込む。ずらりと並ぶ装飾品に混じり、ちらほらと祖国を思わせる意匠（デザイン）のものもあった。その中で、薄桃色の胸飾りが目を惹いた。 　「確かカメオといったか」 　大理石や貝等を彫って作る装飾品だというその胸飾りは、よくある女の横顔ではなく、桜花の意匠だった。さほど大きなものではないが、何となく気になって、ふらりと店に入る。 　彼にはこの留学の前に婚約をした女性が居たが、この数箇月、手紙の一つも書いていない。双方、家のための婚姻であり、数度顔を合わせただけとはいえ、流石に薄情が過ぎるだろう。せめてもの詫びにと、店主に展示窓の桜のカメオが見たいと声を掛ける。 質は良さそうで、安くはないが、手が届かないほど高価でもない。しかし手持ちでは少々足りず、明日、改めて買いにくるので取り置いてほしい旨を告げて、店を後にした。 　 　この日、その店に立ち寄ったこと、そして再度訪れると告げたことが、彼のその後の人生を大きく変えることになるとも知らずに。 ＊❀＊❀＊❀＊ 桜をモチーフにしたカメオ風のブローチです。（※本物のカメオではなくレジン製です。） やや濃いめの桜色の土台には白い桜をあしらい、舞い散る花弁のように、花弁のパーツと朝露のようなビーズを合わせました。 着ける向きを変えたり、花弁パーツを通している穴に紐や鎖を通してネックレスにしたり、ブローチの針をリボンに通してチョーカーの飾りにしても。 また、別売りの「桜の骸～追憶～」と合わせてもお勧めです。 追加パーツのご購入をご希望の方は、「ファスナーチャームパーツ変更②」よりご選択いただけます。 【サイズ等】 本体のみ：約38㎜ 花弁パーツ：約18㎜ 桜の花弁に誘われ、いざ幻想の世界へ！