今日はLanaさんがミラマーレと言うお店を始めるに至ったお話しでもしましょうか。
Lanaさんは人間の父親とエルフの母親のもとに生まれました。
ハーフエルフ、混血です。
容姿はエルフに近く、痩躯な肌は白く透き通り、
美しい瞳と美しい声を持っていました。
アイボリーの髪に、灰の瞳。長い睫毛、細い肩。
今にも消えてしまいそうなほどのその儚さは誰をも魅了するほど美しかったのです。
両親はLanaさんにたくさんのことを教えました。
エルフの事、人間の事、たくさんの魔術と世の中のことを。
彼女は非常に聡明な女性へと成長し、その知識で人々を救ったのです。
ですが、故に人々は次第に彼女を恐れ、その美しさと魔術を使うことから、魔女と呼ぶようになりました。
彼女の両親がなくなり彼女1人。
村人達からの迫害により、彼女は村を追われました。
混血であるが故に、人間の世界にも、森にも、彼女の帰る場所はありませんでした。
彼女は独りでした。
誰も彼女を認めてくれる人はいない。
独りぼっち。
ただ、独りでした。
彼女は泣きました。
どうして私は独りなのかと。
辛くて、悲しくて、寂しくて。
何故私は独りなのかと、ひたすらに夜空に向かって、声を上げて泣きました。
その声は、虚しく夜の森へと消えて行き、彼女に何も残るものはありませんでした。
いつの間にか泣き疲れて眠ってしまった彼女に朝日が木洩れ、
彼女は細い体躯を起こしました。
それと同時に彼女は悟ったのです。
私は独りでも生きねばならない、とーーー。
それから彼女は歩きました。
地図とコンパス、ランタンと少しの食料を持って、
何日も何日も。山を超え、谷を超え、森を渡り、ひたすらにひと気の無い道なき道を歩き続けました。
彼女には知識がありましたが、心身共に疲弊し、食料は底をつき、
日に日に体は衰え、彼女は死というものを身近に感じ、もうそれでもいいのかもしれない、と、薄れゆく意識の中で微笑んだのでした。
ザー…ン ザーッ…ン…
遠くから音が聞こえて彼女は目を覚ましました。
過去に1度だけ父に連れてきてもらった、あの、音。
彼女ははっと弾かれたように頭を起こしました。
体は鉛のように重く、殆ど体力も残っていませんでしたが、
彼女はその音に惹かれるように立ち上がり、
泥だらけの体を引きずるように、そちらへと歩み始めました。
遠くでかすかに聞こえたようなその音は、幻影だったかのように今は聞こえない。
だけれど、はっきり聞こえたあの音。
地図もコンパスももう要らない。
私を呼ぶ音が。
薄暗い森の奥に白い光が見えていた。
Lanaさんはただ夢中になって、その光の方へ歩き続けました。
ザーッ…ン ザーッン…!
今なら分かる。はっきり聞こえる。
私を呼んでる!
ザーッン‼︎
海だ。
森を抜けて眼下に広がっていたのは、大きな大きな海だった。
崖の下には青い海が広がり、潮風を巻き上げながら波を打っていた。
そして目の前には大きな白いレンガの廃城と化した美しい城が、
朽ちてなお、気品と威厳を保ちながら海を眺めてそこに立っていた。
Lanaは震える脚で城へ近づき、その場でぺたりとしゃがみこんだ。
直感した。
私はここで生きて行く。
そう分かった瞬間、思わず涙が溢れ落ちた。
とめどなく溢れ出す涙と記憶に、声を上げて泣いた。
大丈夫、生きていけるわ。あなたなら。
Lanaの声は海と空に美しく溶け、
懐かしい風がLanaを優しく包み込んでいた。
独りじゃなかった。
ずっと、呼んでいた。
呼応していることにも気付かずに。
私は大丈夫。生きていけるわ。
だって、あなたたちの娘なんだから。
Lanaさんは知識を活かしてそこで暮らし始めた。
森もあり、街からは遠く離れた国の外れ。人も来ないのでLanaさんには好都合だったのね。
そこで1人の旅人と出会う。
同じ名前のLanaという女性だった。
彼女は酷く傷付き、城の前で力尽きていた。
私は彼女がすぐに自分と同じ混血だと気付き、城へ運んで介抱した。
森が近くにあるので薬草には困らなかった。
やがて彼女は目を覚まし、とても良い友達になった。
同じ境遇の同じ種族。
やがて彼女は歩けるようになり、旅立つ日が来た。
その後もふくろう便でのやりとりを行い、
ある日彼女から、友人をそちらに寄越すので、薬草を売ってやって欲しいと言われた。
冒険者で、街までは遠く状態も危ういと言う。
私はその冒険者たちを受け入れ、知識を活かして治癒に努めた。
数日遅れてLanaも到着し、
無事に回復した冒険者とLanaから店を開いてはどうかと提案された。
そして始まったのが、ここ、Miramareでした。
Lanaさんは豊富な知識と知恵で、傷ついた冒険者や旅人を受け入れる宿と
店を営み、私はそれを手伝うようになった。
私には魔法と医療の技術があり少しは役に立っていると思う。
Lanaさんは時々旅に出る。
それは新しい物を求めるためでもあり、Lanaさんの昔からの趣味で。
時代は移り変わり、差別や動乱も昔ほどではなくなった。
Lanaさんはエルフの血が濃いため、今でも変わらず美しいままだ。
私は人間の血が濃いため、Lanaさんより少し歳をとった。
今もまた旅に出ている。
私の知らないような場所で、珍しい花が咲いているとか。
多分素敵な景色を見ながら、どこかで風に黄昏ているんだと思う。
私はこうしてLanaさんの帰りを楽しみに待つ。
あ、お客様ね。
行かなくちゃ。
こうしてLanaさんは、幸せに暮らしているのでした。
今日のお話しは、ここまで。