こちらは伝統的な東こぎんという種類のこぎん刺しで、2019年に刺した作品です。表のみならず裏側の美しさもこぎん刺しの魅力です。
300年ほど前に津軽地方の農家の女性が生み出したと言われるこぎん刺し。厳しい冬でも着用を許されたのは麻布のみ。そんな環境のなか目の粗い麻布を糸で刺し埋め、補強と保温性を高めることで厳しい冬を乗り越えてきたそうです。動植物をモチーフとした模様が多いのは、自然の暮らしのなかで生まれたことを教えてくれます。
◆伝統模様、こぎん刺しらしさのある模様を楽しみたい
私自身津軽の生まれとして、当時の女性が生み出した素晴らしい芸術とも言えるこぎん刺しを尊敬する思いから、当時の女性が見てもこぎんだねと思える伝統模様を大切にしたいと考えています。当時の女性たちは他の人たちとは違う模様を求め、競い合うように新しい模様を生み出したそうです。確認できないほどたくさんの模様が生まれ、その中から誰からも愛される模様が時を経る中で残ってきたのかなと想像するだけで、伝統模様への愛着が湧いてきます。どの模様も他との調和が取れる、個の主張が絶妙な物が多いような印象を受けその面白さに魅力を感じています。当時は藩からの倹約令により色糸の使用を禁じられたそうですが、色彩豊かな四季を全身で感じられる津軽地方ですので、色の選択肢があったらどんなに鮮やかなものを生み出したのだろうと言う興味から、様々な色を用いた作品を制作しています。
◆頭の中で対話しながらデザインしています
特にスキルアップキットなどこぎんアートを制作している時は、頭の中で当時の女性たちが見たらなんて言うかな?と想像しながら楽しんでいます。「こしたらだ(このような)模様っこ(模様)もいんでねべが?(いいんじゃない?)」「こご(ここ)わんつか(少し)こせばどんだべ?(こうしたらどう?)」「わい(わぁ)、なんぼいいば(なんて素敵なんだろう)」少し悩んだときは頭の中の津軽弁での会話で解決です。
◆ 人生を楽しむ一つのツールとしてのこぎん刺し
2019年はフランス、パリでの展示会に参加することでこぎんの力をこの目で確認することができ、こぎんの魅力を再認識できました。偶然にも弘前大学に留学経験のある方が現地取材をされていたり、お父様が弘前出身というパリ在住の方がいらっしゃったりと、弘前にゆかりのある方との出会いも多くありました。パリ在住の友人が通訳として遊びに来てくれて、作品を見ながらパリでの買い物の仕方や文化を教えてくれたことも大変勉強になりました。正直販売面では課題の方が大きかったのですが、ワークショップに参加してくださった方がその後こぎん刺しを始められ、ヨーロッパで揃う材料の話など、現在も仲良くしてくれています。
現居住地の横浜での活動は、こぎんに馴染みのない方々の率直な意見を耳にすることができ、現代の暮らしに馴染むこぎん刺しについて考えることができます。また、同じく2019年は横浜市南区にある小学校で総合学習にこぎん刺しをテーマにするクラスがあり手伝う機会に恵まれました。伝統文化や伝統模様への子どもたち目線での素直な想いを聞くことで、伝統の重みや魅力、伝統工芸として次へ繋いでいくことの重要性を改めて認識することができました。自分が思っていたよりも、こぎん刺しは地味なものではなく、伝統模様には奥深い魅力があると子どもたちが教えてくれました。
◆自分なりの解釈でライフワークであるこぎん刺しを楽しみ続ける
伝統的なこぎん刺し(紺で縦長に模様が出る麻布に、白の木綿糸)ではないものがほとんどですが、伝統的なこぎん刺しに大いに影響を受け、自分なりの解釈で楽しんだ作品です。これから年齢を重ね、様々な材料と出会い、経験を積む中で少しずつ作品の内容や表現方法も変化していくと思いますが、自分軸を持って楽しんでいきたいと思います。
上記想いを込めて、日々作品作りをしています。今後も試行錯誤を繰り返し、成長していきたいと考えています。どうぞよろしくお願い致します。
さとの坊