シロツメクサ
「シロツメクサなんか大嫌いよ…」
毎年暖かくなってくると少女は、周りが困るほどに荒れて、引きこもってしまう。
どうしてそんなに春を毛嫌いするのだろうか…。
本来、美しく麗らかな季節である春は、少女の家では酷冬だった。
春が嫌いな少女は、その一点を除けば普通の子どものように見えた。
朝起きて服を着替え、近所の友達が来れば一緒に遊んだし、外出もする。
唯一春だけが、少女の人生に必要がないモノクロの世界になるのだった。
「ねえ、ママ。明日は雪が降るかしら。今日は遊んでいて手がとても痛かったの。」
少女は母親に尋ねる。
「どうかしら。でも、すごく寒いわね。風邪を引かないよう、暖かくして寝なければね。」
母親は、冬の到来よりも、次に来るモノクロに思考が行ってしまう。
また春がやってくる。
先生の診察も拒否して部屋に引きこもる少女に、食事をさせるのは毎日、毎食の苦痛だったのだ。
母親は安定剤を飲まねば眠れなくなっている。
そんなこととはつゆ知らず、少女は冬が大好きだった。
布団に潜って懐中電灯を取り出すと、古びたメモだらけの本に光を当てる。
そこに描かれていたのは、少女の街で古くから語り継がれている、ある妖精の物語。
真っ白で手のひらほどの妖精は、冬の間だけ生きて、春には花の栄養になって命を終える。
少女はその妖精を本気で探していた。
春になるまでに見つからないと、また一年待たなくてはいけない。
妖精がしんでしまうような季節を、少女は年々嫌いになっていた。
実は、少女は昔、一度だけ妖精を見かけたことがあった。
誰が何と言おうとその姿は妖精だった。
しかし、よく見ようとした瞬間に眩しい光に阻まれ、目を開けるとシロツメクサが風に揺れていた。
妖精はしんでしまった。もう会えない、小さな友達。