この度、オリジナルのスピーカーが完成したので、同様設計での受注製作にて販売を開始しました。受注製作ですので、購入者様の要求に合わせてカスタムすることが可能です。
差し当たっては受注製作での販売となりますが、オーダーは敷居が高いし納期も長くなってしまうので、いずれ手持ちの部材を使って既製既納品も用意したいと思います。
https://minne.com/items/41190136
追記:既製品在庫も商品ページを作成しました
https://minne.com/items/41286291
【製作の経緯とデザインコンセプト】
自分で使いたいスピーカーというものを探した時に、現行品のスピーカーというのはどうしてもレトロ趣味の私にはあまりしっくりきませんでした。また、サイズ的にも自分のデスク環境にぴったり合うサイズというのは中々無く、早々に既製品に理想を求めるのは難しいだろうという結論になりました。
しかし、スピーカーボックスというのは仕組みを見てみればいくらか工夫された箱です。設計上の理論はありますが、木箱を作る技術さえあれば製作自体は可能であることも分かりました。それならば自分の納得いくデザインで作ろうということで方向性が決まりました。
また、スピーカーを探す中でヴィンテージ系スピーカーも探りました。デザイン的には非常に憧れるようなものも多く魅力的でしたが、それらのスピーカーはフロア型と呼ばれる据置型のもので如何せんサイズが大きく、デスク上はおろか単身賃貸の部屋に置くのも現実的ではない大きさです。
オリジナルデザインにするのであれば、そういったヴィンテージのデザインをリスペクトしつつミニチュア的な愛嬌と魅力のあるものとし、フロントグリルの交換である程度着せ替え的にアレンジができるものにしようと考えました。
【音作りの方針】
自宅用としてSONYのモニターヘッドホンも時々使っているのですが、解像度が高く音源の音を忠実に再現して聴きごたえがある一方で、ヘッドホンである以上は圧迫感があったり重量が頭にかかることなど煩わしさもあります。スピーカーで同じくらいの再現性を目指し、リラックスして音を楽しめる環境が作れることを目標にしました。
技術的な詳細は後述しますが、こういった音作りの目標に適うように密閉型とし、十分な吸音材を充填することでクリアで再現性の高いサウンドを実現しました。クリアで忠実な中高音はもちろんですが、小型スピーカーでは限界のある低音についても無理に迫力を求めるのではなくクリアに鳴らすことで自然に存在を感じ取れるような音作りをしました。
市販品ではぱっと聞いてすぐ分かるような迫力のある低音がアピールポイントになりがちですが、本機についてはそれよりもしっかり聴き込むことでしみじみと良さが分かる音の良さを目指しました。これまで廉価なPCスピーカーやイヤホンで音を聞いていたのであれば、本機を使うことでこれまで聞こえなかった音を感じ取れるはずです。
また、スピーカーを楽器のように響かせるという設計思想の製品も存在しますが、音の響きについては音源に存在している以上のものを鳴らしてしまうのは再現性を損なうという考えから積極的な活用はしないようにしています。しかしながら、物的にボックスが存在する以上は何かしらの響きは生じてしまうため、極力心地良いものになるよう配慮をするという方針としました。
【技術的アプローチ】
理念はあったとしても、技術的にどうすれば目標の音に近付くことができるでしょうか。まずはスピーカーの方式を検討する所から始めました。
サイズを考えるとウーファーなどを追加することは現実的ではなく、スピーカーユニットが左右各ボックス1つのフルレンジ1発にするしかありません。しかしシンプルな構造にする分、これはコスト面では却ってメリットでもあります。またユニットにかける予算の割合を増やすこともできます。
現在一般的なボックスの方式はバスレフ型というものになります。これはヘルツホルム共鳴の原理でボックス内部で低音を反射させダクトを通して外部に放出することで低音を補うという方式です。一見、低音が補えるならいいことのように思えますが、ダクトやボックス壁面からはボックス内で反射し続けた中高音も漏れ出ることになります。低音をダクトから出さなければならない都合上、ボックス内の音を減衰させるために吸音材を充填するという手段を取ることもできません。原理的にボックス内で反響した音成分が漏れ出ることは避けられず、クリアな音を鳴らすことについては限界のある方式であると考えられます。
それに対して、ヴィンテージ系スピーカーで多い方式として密閉型というものがあります。これはスピーカーボックスを密閉箱としてしまうことで、ユニット背面の音をボックス内で極力減衰させてしまうというものになります。また、ボックス内の空気がバネとして作用することでユニットのコーンに働きかけるというのもこの方式の特徴です。余計な反響音を生じないという点で音の再現性を求めるなら最適な方式であると考えました。ただし、低音を補う機構がありませんから、これについては適切な設計を行うことでユニットの低音を鳴らす能力を極力生かしきるということで、無理はしないまでも自然に鳴らせるようなものにするという方針にしました。
ボックスの方式が決まったら具体的な設計です。サイズについてはデスクトップに置けるサイズということであまり大きくできません。しかし、低音の再生能力を考えるとあまり小さいボックスでは物足りないものになってしまいます。また、スピーカーユニットは大きいほど低音再生に有利ですが、無暗に大きいスピーカーユニットを採用してしまうと適正なボックス容量が確保できずに却って低音再生に支障をきたします。これらを考慮して、ユニット口径8cm、ボックス容積1.8Lという仕様に決定しました。
ボックスは音が漏れない程度に厚く、しかしあまりに頑強すぎて反響音が中にこもり続けてしまっては結局コーンから漏れてしまい音のクリアさを損ないます。吸音材の力も借りてボックス内の音を十分減衰させつつ、反響音がこもらないうちに速やかに外部に放出するという意図で10~15mmの板厚の木材を選定しました。
吸音材は密閉型スピーカーにおいてはボックス内の音を減衰させるだけではなく、定在波を減衰させたり、多孔質で音の経路を伸ばすことで実効的な容積を増やしたり、空気の動きに抵抗をつけることでユニットの振動系の一部を成したりと1人何役もこなす要素です。吸音材のチューニングにあたっては複数の配置パターンを試行し、試聴と併せてインピーダンス測定を行うことで感覚と理論の両面から詰めました。
ボックスの材料についてはスプルス、ラバーウッド、ヒノキを仮組みして聴き比べることで評価しました。いずれの材料も特徴があり、好みの問題といえると思います。自宅用には楽器にも使われるということでスプルスのボックスとしましたが、しっかりしたラバーウッドの音も悪くはありませんでした。この違いについては別の機会に書きたいと思います。
ともあれ、このように設計を詰めたことでこのサイズのスピーカーとしては目標通りの良いものができたと自負しています。