インタビュー

ミニチュアアーティスト・田中智さん「本物そっくり、のその先へ」

「リアルですごい」だけじゃない、心をきゅっとつかまれるような、ときめくミニチュア作品を生み出し続ける田中智さんにインタビュー。異色の経歴や、主催するイベント、教室をはじめたきっかけ、今後の大きな展望など貴重なお話をたくさんうかがってきました。注目のイベント情報もあるのでお見逃しなく。

「ミニチュアアート展2021」を振り返って

「ミニチュアアート展2021」でminneにて限定販売されたミニチュアのクッキー缶。

「ミニチュアアート展」はミニチュアアーティスト・田中智さん主催の教室の受講生が作品発表をする場として企画された展示会で、2016年よりスタート。現在は著名なミニチュア作家さんや企業も多数参加され、ここでしか買えない限定作品が並んだり、トークライブが行われたりと、ミニチュア好きにはたまらない人気イベントです。コロナ禍ということもあり、2021年は初めてminneのオンライン上で開催され、大盛況のうちに幕を閉じました。

今回はそんなオンラインイベントを振り返りつつ、詳しいお話をうかがいたいとminneの作家活動アドバイザー・和田まおが大阪にある田中さんのアトリエ兼教室を訪れました。

2021年11月にminneのオンライン上で開催された「ミニチュアアート展2021」はものすごい盛り上がりようでしたね。出展作家さんが90名以上、数万人もの人がminneに訪れてくれました。

田中さん
minneさんのおかげで、快適な環境での楽しくにぎやかなイベントになりました。オンラインだからこそ、それぞれの人が今いる場所から平和にじっくりと作品を眺めることができたり、素敵な作品投稿をSNSでRTし合ったりなど、一体感というか、みんなで成功させることができたという達成感を感じましたね。

そんな風に言っていただけて感無量です。

田中さん
出展作家さんも、オンラインであればブースの位置や知名度などを気にせず参加できるというか、全員肩身が狭くないというか、対面ではない良さを感じていただけた方も多かったようです。このイベントを機に初めてオンライン販売に挑戦された方もいて、minneが使いやすいのでそのまま継続して販売されている方もいらっしゃいますよ。

「ミニチュアアート展2021」でminneにて限定販売されたミニチュアのシーリングスタンプセットの別バージョン。実際に先端パーツを付け替えて、シーリングワックスで封ができるという本格派です。

本当にありがたい限りです。こうしてコロナ禍となって、オンラインのイベントもグッと増えましたよね。

田中さん
本当に。僕がミニチュアをつくり始めたのは2001年頃、もう20年くらい前なんですけど、作品をつくって、企画書をつくって、自分で百貨店に売り込みに行ってイベントに出展させてもらってましたから。その頃からするとありがたい環境ですよね。当時もインターネットは使っていて、ホームページをつくっていたんですけど、ものすごく遅かった(笑)。でも、そこでもインターネットってすごいなと感じた経験があって。とある百貨店のイベントに出展した際、数少ないネットのファンがイベントに押しかけてくれたんですよ。そこで売り場の店長さんがびっくりして、そこから逆に徐々に呼ばれるようになっていったんです。

インターネットの力、影響力ってすごいですよね。

田中さん
そうですね。「知ってもらう」ということ自体が大変なことでしたから。今、SNSで何か厳しいことを言われたとしても、意見が聞けてありがたいなあと感じる世代です。

田中さんのTwitterのフォロワー数は13.4万人(2022年7月)。食べ物をメインに、精巧なミニチュア作品を公開。動画や制作途中の写真などもアップされ、たびたびネットニュースにも取り上げられています。

田中さん
インターネットといえばかなり前に、インターネットオークションに自分の作品を出品したこともあります。最初は150円とかで、全然売れなくて。でもひとりの方が買ってくれて、また出品すると同じ人が買ってくれるんです。すこしずつ誰かが争うようになって、値段が跳ね上がっていきました。僕は価格が身の丈に合わないと感じたのでオークションはやめてしまったんですけど、ご縁があって、最初に購入してくださった方にお話をうかがう機会があって。どうして買ってくれたのかと聞くと「何か光るものを感じた」と言ってくれたんです。

わ...!とっても嬉しいですね。

田中さん
はい、その言葉が今でも思い出すたびにグッとくるんです。その方は目利きというか、いろいろな作品を買われていたんですけれど、僕の作品に価値を感じて自分のコレクションに入れてくれたというんです。それまでは誰かに売れれば、という気持ちでやっていたけれど、買う側の本気に気づいたというか。こっちももっと本気で売るべきなんじゃないかなと。お客さんは汗水たらして働いて得たお金を自分に出してくれる、その重みのようなものを実感したことで、応えるようにプロの道を歩み始めたというのがありますね。

トラック運転手からミニチュアアーティストへ

田中さんはミニチュアの道を歩む前は、トラックの運転手をされていたんですよね。

田中さん
昼間はばりばりトラックの運転手。家に帰ったらテーブルに向かってひたすら趣味のミニチュアをつくっていました。その様子をテレビのドキュメンタリーで取り上げられたことをきっかけに、メディアをはじめミニチュアのお話をいただくことが増えて。だんだん仕事と趣味のウェイトが変わっていって、ミニチュアが本業になりました。10年くらいかけてすこしずつ、ですね。

田中さんが初期の頃に制作されたというミニチュアスイーツ作品たち。

10年かかったんですね。

田中さん
うちは親が厳しくて「ものづくりで食べていくなんて素人には無理」という考えでした。ちゃんと説得させるためにはある程度の収入を叩き出す必要があったので、百貨店のイベントに出展して名前を広めたり、作品の企画書を出版社に持ち込んで書籍を出版していただいたり、トータルで10年かかりました。

今は兼業作家さんも増えていますが、昔は選べる職業はひとつで、それで食べていけるかどうかが重要という考えが多かったですよね。親を説得させるところまであきらめずに続けられてすばらしいです。田中さんがそもそもミニチュアを始められたきっかけは何だったのでしょう。

田中さん
ものづくりという意味で遡ると、親戚のおじさんに版画の先生がいて、子どもの頃に水彩画を教えてもらう機会があったんです。学校で教わるようなことではなくて、絵の真髄みたいなアドバイスを聞けて。感銘を受けてすこし自分でも水彩画を描いたりしていました。

田中さん
それからしばらく経って、とあるフリーマーケットでタイかどこかで量産されたようなミニチュアの家具セットに出会ったんです。食器棚とダイニングテーブルと椅子4脚。かわいいなと思って買って、家に飾っていたら、テーブルに食べ物も並べたいなと思うようになってつくってみたんですよ。自分には絵心があると思っていたので、紙粘土でつくったんですが、サイズが小さいというだけでめちゃくちゃ難しくて。普通のサイズだったらそれなりにできてたと思うんですけど、ミニチュアって12分の1の世界なので、さらにその家具にあわせてケーキをつくるとなると、もっと小さくなる。

想像を絶する小ささですよね...!

田中さん
それでも、ホットドックならつくれるかなとか思ってチャレンジするんですけど、何もかもうまくいかない(笑)。そこで、当時の遅いインターネットで調べてみると、つくり方を公開している方がいたんです。「樹脂粘土」という特殊な粘土を知って、手芸屋さんで購入したら、これがけっこううまくできたんですよ。素材の違いでここまで変わるんだということに衝撃を受けました。さらに塗料の工夫で表現できる幅もこんなに広がるのか、など技法を知っては試すうちに、どんどんミニチュアの世界にはまっていきました。

ミニチュア作品の色付けにはアクリル絵の具や模型用の塗料を使う人が多い中、田中さんの作品は水彩絵の具を使用。絶妙な色味を表現しやすいのだそう。

それから数十年。田中さんはミニチュアの中でもメインは「食べ物」をずっとつくられていますよね。その理由を教えていただけますか。

田中さん
単純に、みんなが食べるからです。みんなが共感できるもののほうが、需要があって、より広がりやすいんじゃないかなと思いました。あとは、高級なものやとびきりおいしいものを食べに行くときも、これは仕事の資料のためだから、と言えますしね(笑)。

厳かなムードのミニチュア和食はとある雑誌の表紙用に制作された作品。彩りや食材の持つ意味などを調べながら、研究を重ねてつくっていくのだそう。

出版社の人たちと打ち合わせで訪れたというスペインバルの料理を再現した作品。今にもいい香りが漂ってきそうです。

中華も田中さんの手にかかれば本物と見紛う精巧さ。蒸しせいろや調味料の色味まで再現されています。

なるほど(笑)。それにしても田中さんのミニチュアフードはとにかくリアルで、眺めているとおなかがすいてきちゃいます。ご自身のお気に入りの作品を見せていただいても良いでしょうか。

田中さん
お気に入りってあまり思い浮かばなくて。完成すると「次は何をつくろう」というほうに興味がいってしまうんですが、実はけっこうこだわりがあるのはお皿ですね。お皿ってシンプルな分、アラを探しやすくて難しいんです。ミニチュアってみなさん、マクロレンズで撮ったものをさらに拡大して眺めるので、どれだけ拡大されても破綻しないようにすごく丁寧につくっています。

縁枠の立体感も、食器ならではの艶感も美しいです。ちなみにいちばん制作時間を長くかけた作品というと?

田中さん
建物のデザイン、設計から行う大きめサイズのドールハウスですね。これは舞台をイメージして制作しました。こういうものをつくるときはできるだけ自分の中の女子力を高めることを大切にしています。まずフェミニンな雑貨などを買い漁り、実際にディスプレイしてみて、それをもとにミニチュアでつくっていくんです。そして完成したら普通のおじさんに戻る。役者さんと同じような感覚かなと思います。

へえ、おもしろい。女子目線でつくるんですね。でもどこかやりすぎていない感じ、かわいいんだけどニュートラルな感じがとっても好きです。

ミニチュアで個性を伸ばすヒント

ところで、田中さんに難しくてつくれないというようなものはあるのでしょうか。

田中さん
記憶にはないですね。ただ今日は無理、という日はあります。ボクサーが試合当日に向けて減量するのと同じで、作品をつくるための手をつくらないといけないんですよ。繊細な作業をする前に予備練習をするとか、いろんな準備をして構想を練ってから臨まなければ失敗するのがわかる、というのはありますね。

共感する作家さんも多そうです。

田中さん
美容院で髪を切って整えてもらったら、次の日は同じようにはセットできないんだけど、2、3日したら慣れてくるような感覚にも近いです。自分なりに馴染ませていくことが大切。すぐにあきらめてしまう人、無理無理って思ってしまう人は、早いかなって思いますね。寝かせるって大事ですよ。味が出るかもしれない。

田中さんはミニチュアを教える教室も開講され、講師もつとめられていますよね。技術はもちろん、ものづくりの楽しさ、続けるマインドなどいろいろなことが学べそうです。

今回お邪魔した心斎橋にあるアトリエ件教室は、1回のレッスンにつき最大8人の生徒さんが学べる少人数制。田中さんが愛用する道具たち、可動タイプの拡大鏡や、田中さんの手元をマクロレンズで映す巨大モニターも設置されています。

田中さん
自分の手の届く範囲で、少人数でやらせてもらってます。正直、開講当初は一流の作家を輩出したいという気持ちが強くて、怖い先生だと思われていたと思います。でも生徒さんと過ごしてみなさんの想いをうかがうと、プロを目指す方もいれば、息抜きというか癒しの時間として通われている方などさまざまで。僕の役割は、ミニチュアって楽しいんだよということを広めてもらえるようにすることかなって。無理やりとか、苦痛になってしまったらだめな気がしますね。

お気に入りの道具をうかがうと意外にも「シモジマのクラフトテープ」なのだといいます。「梱包で活用するだけでなく、撥水性があるのでこの上で絵の具を出せばパレット代わりにもなりますし、粘土を伸ばすカットボード代わりにもなります。ミニチュア作品の一時的な避難場所にも使える、万能アイテムです」と田中さん。

作り手、イベント主催者、講師としてなどさまざまな面からミニチュア界に携わっていますが、課題に感じることはありますか。

田中さん
いちばん思うのは、ミニチュアがどんどん同じ方向に向き始めているなということ。僕らの時代は誰もそこまで技術がなかったので、リアルにつくるだけで知名度があがっていったんですよ。でもモノマネと同じで、突き詰めるとみんな同じになってしまう。上手!だけど誰の作品なんだろうって。ピカソじゃないけれど、みんなが同じように上手に描く時代にオリジナリティをプラスすることが大切で、今後はそこが求められていくんじゃないかなと思っています。

リアルを追求するほど、そこで個性を出すというのはなかなか難しそうです。

田中さん
僕はヒントはファンタジー要素にあると思っているんです。リアルにつくることに加えて、現実にはないアイデアやアート性をすこしプラスする。例えばこの前、ソフトクリーム機をミニチュアでつくったんですが、調べてみると本物の機械はメカニック感がとても強かったんです。なので、オリジナルのデザインを加えて、見てかわいい要素を追加して仕上げました。それこそが「ミニチュアアート」なのかなと。僕の教室の生徒さんには、技術を利用してデザイン性を求めていくことの大切さも伝えています。

「アイデアをひとつプラスするだけでいいと思うんです。これは現実ではありえないだろうけど、せいろの中に華やかな中華の円卓を再現してみました」と田中さん。確かにインパクトがありますね。

「ミニチュアアート展2022」を開催決定!

とても身になる教えですし、もっとおもしろい作品がたくさん生まれていきそうです。そんな生徒さんたちの作品発表の場を、ということで始められたのが「ミニチュアアート展」なんですよね。

田中さんの教室の生徒さんが制作された作品。Bonne Chance*yuriさんの「いちごスイーツづくしセット☆

田中さん
2016年から毎年1回開催しています。会場は主に大阪の心斎橋か東京の銀座で、最初の頃は「ドールハウス・ミニチュアハンドメイド展」という名前でした。2020年はコロナの感染拡大により中止しましたが、昨年は「ミニチュアアート展2021」としてminneさんと組ませていただいて、本当に盛り上がって。2022年もぜひminne上で開催させていただけたら嬉しいのですが...

こちらこそ、とても嬉しいお話です。ぜひまた一緒にやりましょう。

田中さん
ありがとうございます!今回は、オンライン会場はminneで、オフライン展示は心斎橋ハートンホテルでと考えています。実物を眺めて楽しみたい方は、心斎橋に足を運んでいただいて、販売される方の作品の横にはQRコードを置こうかなと。実際の購入はどこからでもできるというハイブリッド方式です。

いいですね。わたしは心斎橋にも足を運びます!

田中さん
ぜひいらしてください。ミニチュアの作品って基本的には一点もので、売れてしまったらもう目にかかれないものなので、一対一で終えずに、いかに展示してたくさんの方に見ていただけるか、そこで興味を持っていただけるかが重要かなと思っています。ミニチュアの制作を頑張りたい人のためにも、もっともっと人を集めて、ミニチュアの魅力を広げていけるよう個人制作の活動も引き続き頑張っていきたいですね。

ミニチュア界を盛り上げるだけでなく、牽引していく存在ですね。最後に今後の展望をうかがいたいです。

田中さん
最終目標が実はあります。僕の生徒さんを含め、すばらしいミニチュアをどんどん排出していく一方で、残念な話ですけれど、昔ミニチュアを広めてくださった作家さんの中には、すでにお亡くなりになられている方もいらっしゃるんですよね。その修繕をしたいなと考えていて。

ええっ、素敵すぎますね。ミニチュア作家さんの新しい職業が誕生するわけですね。

田中さん
そういう風に活躍できる場もつくれたらいいですよね。例えばレジンって経年変化で特に昔のものはどんどん黄色くなって収縮していったりする。そこを今の技術を利用して生まれ変わらせたいんです。美術品でも修繕屋さんっているじゃないですか。僕はミニチュア専用の修繕師になりたい。それって、作り手の気持ちもわからないといけないと思うんです。そのために、自分がまずはもっと技術を磨いていきたいですね。

田中智(たなか とも)
nunu’s house主宰。ミニチュアアーティスト。「素材からつくる」をコンセプトにリアルなミニチュア作品を制作。メディア出演・著書多数。オリジナルレシピを公開・指導する教室も運営。2016年から「ミニチュアアート展」を主催。

minneのショップページはこちら
nunu’s house:https://minne.com/@nunushouse

和田まお
minneの作家活動アドバイザー。YouTube「おはよう minne LAB」では、ハンドメイド作家・ブランドのための売るノウハウを伝授。著書『ハンドメイド作家のための教科書!! minneが教える売れるきほん帖』が絶賛発売中。

「ミニチュアアート展2022」

開催場所:ハートンホテル心斎橋2Fホール
開催日時:11月26日(土)11月27日(日)
1日目10時〜19時 2日目10時〜17時 

SNSアカウント:https://twitter.com/miniature_art01
webサイト準備中:http://miniatureart.ciao.jp/


文 / 西巻香織 撮影 / 真田英幸 ディレクション / 三好雛子