インタビュー

縫製作家・10decemさん「手の可能性を感じる服を」

ギャラリーを覗くと、「一体どうなっているんだろう?」と思わず手にとってみたくなるような、アートのような立体感を持つ洋服がズラリ。個性溢れる作品を次々と生み出している、10decemさんのもとへお邪魔してきました。

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柔らかい日差しに包まれて

わたしたちを出迎えてくれたのは、作品の持つモードな雰囲気と、おっとりした印象が同居する女性でした。「ちょっと緊張していますが、今日はよろしくお願いします」と10decemさん。案内していただいた作業部屋は、彼女の生み出す洋服たちからはイメージの遠い、和の一室。


あの洋服たちが和室で生まれていたというのは驚きでした。

10decem 
そうですよね(笑)。少し前に引っ越してきたのですが、この部屋は窓からたっぷり日が入るので心地よく、足もとが畳なので洋服をつくるときの生地もパッと広げられて、作業しやすいので、気に入っています。

いつ頃から洋服をつくられているんですか。

10decem 
小さいころから、自分が思っていることをお話したり、文章にすることは得意ではなくて。自己表現として「何かをつくる」ということをしていました。学校でも勉強は苦手だったけれど、図工や美術だけは先生がほめてくれたんです。はじめて服をつくったのは、小学生のころ。母の日のプレゼントのためにつくったエプロンです。マジックでパターンをひいて、布を切って。ペラペラの生地だったので、端を三つ折りにして。

まだ、家庭科の知識があるかないか、といった年頃でパターンをひかれていたんですか?

10decem 
はい。どうやったらあのカタチになるのかな、と考えて考えて、つくりました。誰かにつくり方を聞いたり、参考にしたりはせずに、自分で勝手につくったので、あまり出来は良くなかったんですけれど(笑)。

「白」の魅力


本格的に、洋服をつくりはじめたのは?

10decem 
文化学園大学の服飾科に入ってからですね。いろいろな刺激があって本当にたのしい毎日でした。「企画集団 FUSE」という団体に所属していて、毎年、文化祭に合わせてファッションショーをつくりあげることが主な活動なんですけれど。とくに思い出深いのが「白のグラデーション」というテーマでつくりあげたショーです。

ランウェイの写真。衣装はドレスのようで、すべてパンツスタイルなのだそう。〈上〉10decemさんの作品〈下〉チームメンバーの作品。

10decem 
白をベースに「自立したかっこいい大人の女性」を演出するという内容だったのですが、このとき、「白」っておもしろいなと気付いたんですよね。

10decemさんの作品は、そのほとんどが白いお洋服ですね。

10decem 
そうなんです。ショーで「白」と向き合ったときに、すごく自由で幅のある色だなって気がついて。そこからどんどん「白」にハマっていってしまって。デザイン次第でイメージがすごく変わるんですよね。柔らかくて女性らしい、しなやかさもあるけれど、デザインによっては、そこに芯がある、凛としている感じも出せたりとか。

これまでの作品を、いくつか見せていただけますか。

10decem 
これは一昨年のハンドメイド大賞に出品した作品です。わたしがつくりたい作品は、少し変わったデザインのものなのですが、つけ襟だったら、目を惹くうえに、日常にも取り入れやすいかなと思いました。シャープなラインで立体感を出していて、360度、華やかさと存在感を放ちます。

10decem 
こちらは、短冊のようなカフスで着用するとフリルのように広がる、10decemで人気のブラウスです。袖口がキュッとしますので、女性らしい華奢な手もとを演出してくれます。

プロの縫製に触れる


どれも独創的なデザインで、曲線や立体感を表現する技術に驚かされます。

10decem 
実は大学を卒業後は3年半、縫製工場に勤めていたんです。まわりの学生たちはデザイナーやパタンナー、販売の道に進む子が多かったんですが、わたしは「つくること」、とりわけ「縫うこと」が大好きで。

10decem 
入社した縫製工場は、アバンギャルドなデザインのお洋服を扱っているところで、ユニークな構造の洋服をたくさん目にしました。たとえば、スカートにフリルがついているとしたら、そのフリルが身頃ともつながっているとか。一見、衣装っぽくて派手なんだけれど、端処理もきちんとしてあって、普段着でも着られるとか。縫製のさり気ないところに、こだわりが詰まっていて、おもしろかったですね。早さ、美しさ、正確さ。たくさんのことを学ばせていただきました。

縫製工場での、いちばん印象深い思い出は?

10decem
入社して1年目のときに、パリコレのサンプルを縫製させていただいたのですが、その年のパリコレにご招待いただき、会社のみんなで実際にフランスへ観に行ったことです。自分が関わったお洋服が出てきたときは感動しました。とても華やかな経験をさせてもらって、すごくうれしかったです。

それはかなり貴重な体験でしたね。

10decem
会場で素晴らしい洋服をたくさん目にする中で、あらためて、わたしはつくることが好きなんだなと確信しました。素敵なコレクションやデザインの洋服を見たときに、「着たいな」ではなくて、すぐに「つくりたいな」と思うんですよね。

自分の手でつくる


作家さんとして活動をはじめられたきっかけをおしえてください。

10decem
縫製工場で、オーダーいただいた洋服をその通りに縫製していくうちに、ふと自分の手でイチからデザインしてつくった服を売ってみたい、と思ったんです。そこでminneを知り、ワンピースを出品してみたところ、1週間くらいで売れたんですよ。まだ梱包のことを考えていなかったくらい、本当に売れるとは思わなかったので、逆にとまどってしまったんですけれど。でも同時に背中を押されて、いろいろやってみよう、と。ちょうどその頃に、身体を壊して縫製工場を辞めてしまったこともあって、これからは作家として活動をしていけたらなと思いました。

実際に活動をされてみていかがですか。

10decem
自分が「いい」と思ったものを、お客さまにも「いい」と思ってもらえるのってこんなにうれしいんだなと感じています。お客さまから「こんな風に着ました」と報告をいただいたり。購入した服を着て、イベントに足を運んでくださる方もいたり、それまでにないうれしい体験をたくさんさせていただいています。

ギャラリーに並ぶ洋服は、どれもかなり凝っていますが、デザインはどのように生まれるのでしょう。

10decem
前につくった服をベースに、ちょっとカタチを変えてバリエーションをつくろう、とか、こんな服があったら合わせて着られるかもしれない、という発想でつくっています。白い服なので、多少、遊びをきかせても気にならないので、デザインしやすいですね。

デザイン画があれば、見せていただきたいです。

10decem
わたしはデザイン画は描かないんですよ。頭の中でデザインをして、紙にパターンをひきながら、端っこにメモ程度に絵を描くことはあるんですけど。とにかく、デザインが浮かんだら、早く縫ってカタチにしたくなってしまうんですよ。平面の生地から立体的なカタチにしていくところに、よろこび、やりがいを感じます。

3台のミシンたちとともに


作品へのこだわりをおしえてください。

10decem
「この服の構造は、どうなっているんだろう?」とか「このディテールはつくるの大変そう!」とか、縫製が生みだす、目にとまるデザインであること。かわいい、かっこいい、だけではない印象を与えられたら、と思っています。

普段の制作で使われている道具を見せていただけますか。

10decem
メインで使っている業務用ミシンのほかに、押し入れには学生時代から愛用しているミシンが2台あります。ひとつはボタンホール用、もうひとつは端処理用。3台を使い分けて制作しています。

「押し入れの前に椅子を置くと、ちょうどいい高さになるんですよ」と10decemさん。押し入れも作業台として有効活用。

ランダムに刺された針、マチ針も、縫製の必須アイテム。「縫製工場だったら怒られてしまう管理具合です(笑)」と10decemさん。工場ではすべてのマチ針に鈴と番号がついていて、使用後は番号を確認して戻すそう。

ミシンをかける際、縫い目がずれたり、ひきつらないよう布地を押さえるために使用しているという目打ちは、おばあちゃんのおさがり。「この絶妙な細さと長さが使いやすいんです」。

大きなアイロンは台の部分が蒸気を吸ってくれるため、より強い折り目をつけることができるという優れもの。縫製工場でこのアイロンに出会い、あまりの使い勝手の良さに購入したそう。

制作する過程でどんな瞬間がいちばんたのしいですか。

10decem
3台のミシンを使って、ひとつずつコンプリートしてカタチを仕上げていき、最後に表だけでなく裏側までこだわって、美しく縫製できたときです。表だけでなく、裏のミシン目、端処理までしっかり美しくできたときに、よし、って思います(笑)。

手が持つ可能性


こだわりを持って、つくり続ける上でのモチベーションはどのように保っていますか?

10decem
わたしの場合、何かがあるから洋服をつくる、というわけではなくて、起きて食べる、みたいな感覚で、ふつうに、次は何をつくろうかな、と日々思っているので、生活のようなもの。つくる中で細部にまでだわりを持つのは、きっと縫製を誇りに思っているからです。

minneのプロフィールの肩書欄にも「縫う人」と記載されていますね。

10decem
縫製って、アパレル業界を目指している人からすると、少し地味な印象があるかもしれないけれど、人の手でカタチをつくっていくことのすばらしさ、可能性ってすごいなと思っていて。作家名も、手の力、10本の指でつくりあげる力を伝えたいと考えていたら、ラテン語の「10=decem(デケム)」がかわいすぎず、響きもいいなと思って、名付けました。

インパクトもあって素敵なネーミングですね。10decemとして今後つくってみたいお洋服はありますか。

10decem
最近、花柄のお洋服も少しずつつくっているんです。白いお洋服とは違って、柄を活かすデザインを考えることもたのしくて。なので、白いお洋服をメインにしつつも、それに合うような柄もので一点ものをつくる、ということも個人だからこそできると思うので、やっていきたいですね。

取材当日に着用していたボトムスも自身で制作されたもの。アンティークのような花柄はYUWAの生地を使用。

花柄のコートでは、キルティングを自作。細かい作業ほど、やりがいを感じ、たのしめるそう。

10decem
それから、白い服が好きなので前から興味はあったのですが。昨年の夏にはじめて依頼をうけて、ウェディングの縫製をやらせていただき、とてもたのしかったので、ウェディングにも挑戦していきたいですね。お洗濯のことも考えなくていいので、よりデザインの幅が広がりそうで、わくわくします。たのしみにしていただけたらうれしいです。

10decem
服飾の学校を卒業後、有名ブランドやパリコレクションのサンプル縫製を請け負う縫製工場で技術を培う。白い世界観をベースにした独創的な洋服を制作。
https://minne.com/@10decem


取材・文 / 西巻香織   撮影 / 真田英幸

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