＃180　運命の歯車

「黒の反対色は白だからぢゃないのか？」 僕のスケッチブックをのぞき込んでヴィクターは言った。 僕は宙を眺めて返事する。 「うーん、それだとモノクロデザインでかっこいいけど、おもしろくない」 「白黒幕の対は紅白幕？」 隣で茶々を入れてくるヴィクターに向き直って、僕はゆっくり説明し始める。 僕はどうしてこの課題に赤と黒と白を使って表現したのか、その理由をレポートに書きたいと思った。 僕のデザイン画は、確かに最初何となくから始まって、描いているうちにアイデアがひらめいて、どんどん形になった。 僕の心がどうしてその色を選んで、どうやってそう決めるに至ったのか、僕自身が納得したいんだ、僕の脳みそがどんな処理してるのか、客観的に考えたいのさ、そしてそれをどうしたら先生に伝えられるのか、悩んでるんだ。 慎重に言葉を選びながら話す僕のことを、ヴィクターはいつもながら飽きずに最後まで聞いてくれる。 黒曜石みたいな瞳でまっすぐ僕を見て。 そして最後に頬杖をつきながらニヤッと笑って 「それを書けばいいぢゃないか」 と言った。 彼を目の当たりにした瞬間、気がついた。 そうだ、僕は彼のイメージでこのデザイン画を描いたんだ……。 突然、僕の頭の中で何かの歯車が音を立てて動き出した。 ★★★ 言葉にできない、突然のひらめきがあります。このロゼットもそうしたインスパイアの結晶のひとつ。 黒と赤の変わり縞のリボンと、斜めストライプの変わり織りが入ったサテンリボン。 方や張りのあるしっかりとした手触りで、方や艶やかな光沢と滑らかな手触り。 どちらのリボンも永らく手元で出番を待っていた素材たち。 そこに少しだけ儚さのあるものを、と いつもより淡いブルーのレジンに星屑と歯車を閉じ込めて あふれ出たひとしずくの歯車を添えました。 銀古美のミール皿の外枠を縁取る曲線が、リボンの直線と対になっています。 すべての欠片がそろったある時、待っていたかのようにひとつのロゼットになりました。 そして、しばらくの間の眠りを経て物語が生れました。 何かのエネルギーを得て歯車が回りだすように、人生においても、何かが突然回りだすことがあります。 思いがけない停滞を味わうことがあっても、何かの拍子に物事が進みだす、そんな背景のある作品です。 どうか貴方の運命の歯車も好転しますように。 ★★ 普段の装いにも少年装にも似合うシンプルなロゼットです。 小さめのクチバシ付きクリップピンを裏面に装着しました。 ヘアアクセサリとしても、胸元を飾るタイとしても使えます。 リボンやテープをクリップで挟み根付風に帯元にアレンジも可能です。 もちろん、帽子やコートの飾りにも。 ベージュカラーとも相性が良いため、トレンチコートや帆布のトートにも似合います。