【瓶詰めの御話】受け継ぐ意志【5/5】

【瓶詰めの御話】受け継ぐ意志【5/5】

空挺料理団のフューカに今から帰るんじゃ危ないからと、明け方まで気空挺に泊まるように言われせっかくなので甘えることにしました。 フューカは「UNDINE CRYSTALS」の塩を使った野菜とナッツの炒めものや焼きたてのパンをふるまってくれたり、見たことのない青い果物を「食べな!」と強引に口に入れてきたりととても楽しい時間を過ごしました。 その夜は、フューカが私の亡き師匠と過ごした物置部屋で、淹れてくれたココアを飲みながら師匠の話をしました。 翌朝ここから店までは大分あるだろうからと、昨晩焼いたパンにハムを挟んだサンドイッチを「昼頃に食べるといいさ」と渡してくれ、そして幼な蜂には砂糖で出来た餌をカゴに入れてくれました。 フューカから『ウンディーネの還り水』が入ったワインボトルを二本だけ受け取り、私は気空挺の甲板へ出ました。 操縦室の開いた窓に肘をかけ懐かしそうに眺めるフューカに「お世話になりました!」と大声でお礼をいい箒に跨ると、ニッカリ笑ったフューカが箒で飛びやすい高度に下がって安定した気流域まで連れて行ってくれました。 「また遊びにおいで!!!旨い料理作ってやるからさ!!!」 あっはっはっと豪快に笑うフューカに大きく手を振り、私は甲板を飛び立ちました。 山々はあっという間に青々とした緑に変わり、しばらくして太陽が真上に来た頃、持たせてくれたサンドイッチを食べながらこの旅のことを考えていました。 ――戸棚にあった古い瓶詰めを発見したことがきっかけでこの旅が始まった。 ドワーフの村の鍛冶屋のアンヴィル、ドワーフの長と出会い、「HONEY DROPS」を生成する『幼な蜂』を受け継いだ。 そして、私が出会う前の師匠を知る空挺料理団 団長のフューカと出会い、「UNDINE CRYSTALS」の原料となる『ウンディーネの還り水』を受け継いだ。 この旅自体全て師匠の考えた通りだった――。 魔法の時代が最盛期だった頃…何百年も前の話ですが、どんな人間も魔法使いや魔女、精霊たちの存在を信じていました。 ですが大きな戦争があってからはたくさんの魔法使いたちが消え、精霊も虫も植物もほとんど絶滅。 魔法教会の使者たちは若い魔法使いを守るためにと空間を隔絶しました。 数百年経った頃にはもう、人間たちは魔法使いの存在など信じておらず、ファンタジーの登場人物として認識するようになっていました。 危惧した魔法使いや魔女たちは各国に散らばり、医師として占い師としてまたは人間として暮らし、最盛期とまでは行かずとも人々の信じる思いを増やしていきました。 そして今回の旅で、受け継ぐ者に届けるために大切に守り続けてくれていた者たちの存在を知り、私も決心がついたのです。 師匠の意志を継ごうと。 「あぁ、リーゼさん。おかえり。」 店を空けている間畑の世話をしてくれていた庭師が、太陽を背に降りてきた私を見てまぶしそうに目を細め「何か飲みます?」と声をかけてくれました。 「…ココアが飲みたいな。」 「珍しいですね、紅茶じゃなくていいんですか?」 「そういう気分なの。」 クスクス笑う庭師に「なにさ!」と怒った私を指さしながら 「顔、真っ赤ですよ」と笑う庭師の背中を押して、この旅が終わったのでした。 Riese