えー毎度バカバカしい話を一つ。
物にも魂が宿ると言いますが、あなたの家の台所でも夜毎、食器や鍋たちが会話をしたりしてるんです。例えば、こんな感じで。
「あーあ。ここの家の人は本当にひどい」
「おやおや。グリルパンさん。一体どうしたって言うんで」
「これは雪平の兄さん。聞いておくんなさい。そりゃあっしはステーキ肉なんぞをジュージューと焼く時に使われるのが役目でさあ。ステーキなんて、おいそれと食べやしないからたまにしか使われない。それはいい。だけどサンマを焼く時にだって使ってくれてもバチはあたりやしないよ。それがここの家の人と来たら、調理が楽だからって無水鍋にサンマと野菜をブッ込んで煮込んでばかりだよ。何がサンマ丼だ。サンマってのは焼いて大根おろしに酢橘を絞ったもんで頂くもんだよ。煮てどうするってんだ。てやんでえ。べらぼうめ」
「まあまあ。グリルパンさん、落ち着いて。ところでオメエさんは江戸っ子かい」
「そうよ。下町の工場産まれさ。100均のチャイナ産まれなんかと一緒にするんじゃないよ」
「その点、あっしなんぞは、よくうどんを煮込まれるから、お前さんに較べると随分と幸せなんだねえ」
「幸せじゃないわよ!」
「おや、どんぶりのブリ子さん。何を怒ってるんで」
「どうもこうもないわよ。普通、うどんを煮込んだら、どんぶりに移してネギや七味を振りかけて頂くもんでしょ。それをここの家の人と来たらドンブリを洗うのがめんど臭いって、直接、アンタから啜ってるじゃない。あたしの立場はどうなるって言うの!」
「でも、オメエ、サンマ丼の時に使われてるじゃねえか」
「何がサンマ丼よ。あたしはそばやうどん、カツ丼を盛ってもらいたいの。サンマってのは焼いて大根おろしに酢橘を絞ったもんで頂くものよ。煮てどうするのよ。とろくせぇことしとったらあかんがね」
「まあまあ。ブリ子さんも落ち着いて。ところであんたは名古屋生まれかい」
「そうだがね。私は尾張名古屋は瀬戸の生まれだわ。ぼっさい100均のチャイナ産まれとは違うだがね」
「二人してメイド・イン・ジャパンとは、こいつは目出度いねえ」
「目出度くなんかあるかい!!」
「おやおや、あなた達は鳴り物入りで科学館からいらした惑星型箸置きの地球さんと月さんじゃありませんか。あなた達はさぞや重宝されてるんでしょうな」
「ふん。重宝されたのは始めのうちだけさ。」
「そうよ。俺たち、箸置き用だけに、ナイフやフォークを休ませるには荷が重いわけよ」
「はっきり言って使いにくい。グッズだけに実用性より見た目重視なのよ」
「ここの家の人って基本メンドくさがりじゃん。手間より楽に走るわけさ」
「気づけば、食器棚が指定席になって休んでばかりの身の上よ。レストだけに」
「そう。はしに置かれてな」
「そんな上手いこと言わなくても。で、誰が陽の目を見てるんで」
「プラスチックのカバー野郎だよ」
「言っとくけど、あいつはもともとパイン缶の上蓋に過ぎないんだぜ。普通はゴミ箱行きなのに。悔しくて涙が出てくらあ」
「まあまあ。ここの家の人は物を大事にする人だから」
「大事にするなら、俺たちをぞんざいに扱うじゃない!」
と、皆さんも、使わずにほったらかしにしている物達もたまには使ってやって下さいね。
話は変わりまして、クマと小鳥のギャラリーに目を向けて見ますと、ここでも何やら話が弾んでるみたいです。
「あー退屈だねぇ。ちょいと巾着さん、何か面白いことはないもんかね」
「ちょいとレコードバッグの旦那、ここには巾着は沢山いるんで、いったい誰に向かって聞いているのさ」
「お前さん達は似通ってるから誰でもいいよ。赤いの、お前さんでいいさ。なんか面白い話でもしてくんねぇ」
「似通ってるとは失礼だな。旦那たちだって、お揃いの風体だぜ」
「言うねえ。黄色い巾着の。じゃあお前さん何かねぇかい」
「そうさな。面白え話はないが、ここにいる皆で怖い物でも言い合ってみるのはどうだい?」
「よしのった。俺が怖いのはグラスに入ったジュースだな。あれが側にあって、なんかの拍子で奴さんが倒れたらって、考えただけで震えてくらぁ」
「俺はコーヒーだな。コーヒーのシミなんか付いた日には恥ずかしくて表を歩くことなんて出来ないよ」
「おめえはそもそもコーヒー柄の生地なんだから別にいいんじゃねぇかい」
「お前さん。それを言っちゃあおしめぇだよ。って、俺は寅さんかい。柴又生まれか」
「俺は芝生柄だけどな」
「旦那たち、いつまで、レコードバッグ同士で漫才してるんでぇ。次はあっしの番だ。あっしは尖った物が怖い。あれは俺たち編み物の天敵だ。編み目の隙間から顔を出された日には、お役御免だ」
「俺も参加していいかな」
「手編みカゴの兄さん。入んねぇ入んねぇ。兄さんは何が怖いんで」
「俺も尖った物は怖いが、それより熟れたトマトが怖い。あれは必ず潰れる、そして俺も必ず汚れる」
「そうさな。俺たちハンドメイド作品の怖いものなんて似たり寄ったりって話だ」
「違いねぇ。違いねぇ」
「アッハハハハー」
「赤い巾着よ。何がおかしいって言うんで」
「お前さん達の怖いものがありきたり過ぎてさ。へそが茶を沸かすってもんよ」
「じゃあ、お前さんは何が怖いって言うんだい?」
「俺か。俺はハートマークのボタンが怖い。どういうわけか、あれを押されると俺は息ができなくて、そのうち死んじまうんだ。あー怖い怖い」
「あいつ向こうに行っちまった」
「ハートマークのボタンが怖いとは変な奴だ」
「ハートマークと言えば、ギャラリーの左下についてるじゃねぇか」
「よし、試しに奴さんのハートマーク押してやろう。あいつ俺たちのこと笑いやがって。ちょっと懲らしめてやろう」
レコードバッグ達は他の作品達にも声をかけて、一斉に赤い巾着のハートマークを押すんですが、赤い巾着は怖がるどころか、押される度に歓声をあげる始末。
「おかしいな。あいつ怖がるどころか喜んでるじゃねぇか」
「これは俺たちいっぱい食わされたみたいだぜ」
「やい、赤い巾着よ。おめえハートマークが怖いだなんて嘘っぱちだな」
「これはみんな。騙して悪かったよ」
「お前さんには負けたよ。で、お前さんが本当に怖いのはいったい何だい?」
「あっしの怖いものかい?今は“カートに入れる”のボタンが怖い」
お後がよろしいようで。 ドンドン♪