【店長・山下優 連載】本屋のABC 第6回「初めて感じた自由」

青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる連載。お店づくりや商品の売り方などと合わせて、毎回1冊おすすめの書籍をご紹介いただきます。今回は、山下さんが“出版”という挑戦を経て感じたという「自由」についてです。

Aoyama Book Cultivation 第2弾

こんにちは、山下です。
前回お話した、書店である青山ブックセンターが「出版」を行うプロジェクト「Aoyama Book Cultivation」。その第2弾となる書籍『ALL YOURS magazine vol,1』が12月13日についに販売開始となりました。

今回は、今年経験できた2冊の出版を経て感じたことをお伝えしたいと思います。

待つばかり、は終わり

出版プロジェクト「Aoyama Book Cultivation」は、発酵デザイナー小倉ヒラクさんに「本屋さんが1番届けたい本を自分たちで出版したらいいんじゃない」と提案をいただいた日から動き始めました。

出版を進めるにあたり、最初は浅はかと思いつつも、出版社と取次(流通業者)を通さずに、自分たちで出版をすれば、その分の利益が得られる、という点に注目していました。

そもそも本屋が、出版社が取次を通して流通している書籍を販売した際の粗利益率(売上総利益)は、約20%前後です。(※チェーン店やお店の規模で前後あり)

インターネット、スマートフォンが登場する前は、ベストセラーが多くありましたし、さらに定期刊行物の雑誌が一定数売れていた時代の高い売上では、この粗利率でも十分だったと思います。

ところが、その時代に先のことを考えた投資などをせず、変革のないまま、今を迎えてしまったため、出版業界全体の苦境とも言えるこの状況につながってしまったのだと思っています。

当たり前ですが、本屋は、出版社の新刊について、刊行のスケジュールも販売価格も決めることはできず、刊行されたものが入荷することを待つばかりです。(入荷希望のタイトルが入荷しないこともあります。このことについては、またどこかで…)

しかし、今や本屋は入荷もお客さまも「待つだけ」では生き残ることが難しくなっているのが現状。

実際に本屋として出版をしてみて、利益率以上に収穫と感じたのは、執筆、印税、編集、デザイン、紙代、印刷代......そのほか付随する原価を知ることができたこと。
そして、本を仕入れて売る、届ける際の考え方を新たにできたことでした。

初めての景色

出版社が本をつくり、取次が流通し、本屋が売る、という古くから続くシステムの中身が変化しないことにはずっと疑問を抱いてきました。
改善できると思い、著者と本屋の間にいる出版社や取次に「どうしてこうなのか」と理由を尋ねても「以前からこうだったから」という一点張り。
改善の余地はなく、不思議にすら思っていました。

「本を届けたい」という目的は一致しているはずなのに、です。

そんな中、自分たちで2冊を出版してみて、はじめて「自由」を感じることができました。

著者への依頼はもちろん、販売価格・販売方法・装丁・デザイン、そして届ける場所。手段を持っているとここまでできるのか、と驚きもありましたし、自分たちで値段をつけるという商いの基本の基も体感できました。

通常の流通を考えなければ、できないことはほぼ無いと実感しました。


Aoyama Book Cultivationで出版した本は、基本的には当店(と何店舗か)だけで販売する予定です。現在、なかなか大きな声で「来店してください」とは言えない状況ですが、この店舗にしかない本、そして足をとめて見てもらえる「棚」があることは、ひとつの強い来店動機となりました。
他の場所に卸すときがきても、エリアやタイミングを考えて卸し先にもお互いにメリットが生まれるようにしていきたいです。

今後の出版予定

Aoyama Book Cultivation第2弾の書籍『ALL YOURS magazine vol,1』の著者でありALL YOURS代表の木村まさしさん。

自分たちで本をつくって、並べて、売る。本を届けるうえで、決して特別で新しいことをやっている意識はありません。歴史を紐解けば、江戸時代から出版元、編集者、流通業者などいろいろ兼ねていた、蔦屋重三郎みたいな人もいましたし、ここ数年でも本屋による出版という事例はたくさんあります。

その中で、青山ブックセンターとしてどういう出版ができるのか。
ジャンルや形態、座組みも含めて、明確に絞らずに、結果的に出版していった本を改めて集めたときに、青山ブックセンター、Aoyama Book Cultivation、つまりABCっぽいものになればいいなとやんわりと考えています。

ひとつ、今、具体的に動いているものとしては、近く文庫本を刊行予定です。文庫本は文庫本で、シリーズ化できたらいいなと夢想しています。
ぜひたのしみにしていただけたらうれしいです。

最後に、先日、藤原印刷さんで印刷立会いをしてきました。Aoyama Book Cultivationで出版した2冊ともお世話になっています。

Aoyama Book Cultivationの第2弾となる書籍『ALL YOURS magazine vol,1』の制作メンバーみんなで。

1冊の本を出版するにあたり、たくさんの人が関わって少しずつできあがっていく尊さと喜びは、今後も絶対に忘れたくないですし、慣れてしまいたくないです。

これから先、本屋が出版していく意義をもっと突き詰めていければと思います。

今回の1冊

『ALL YOURS magazine vol,1』
出版:Aoyama Book Cultivation
著者:木村まさし
当店の出版プロジェクトAoyama Book Cultivation第2弾がついに刊行です。「この本を届けるために出版をしたい」という想いは、著者である木村さんの底が見えない深い思考と思想から滲み出た文章が、編まれ、デザインされて、形になっていく過程で、「出版をする」という確信に変わりました。
結果、本という形に制作チームにとっての「初」という唯一無二の熱量が注ぎ込まれ、最高の1冊が完成しました。
今この時代に本を出版する意味を考えれば考えるほど、作り手側、特に出版元が胸を張って「最高」と言えるものであることは必須条件だと思います。
もちろん、刊行したらしたで、ああすればこうすればということはありますが、そのあたりはvol,2に活かしていきます。そう、これはvol,1、始まりに過ぎません。オールユアーズとともに、青山ブックセンターも共に歩んでいく「共犯者」を募集しています。ぜひ。
 


 

山下優
青山ブックセンター本店店長。1986年生まれ。2010年、青山ブックセンター本店入社。アルバイトを経て2018年11月に社員になると同時に店長に。
山下優Twitter:https://twitter.com/yamayu77
青山ブックセンター本店 公式HP:http://www.aoyamabc.jp/store/honten/
 

書き手 / 山下優
プロフィール写真 / 植本一子
編集 / 西巻香織