特集

「あの作品」ヒストリー vol.13 トキシル・ハさんの、私だけのちいさな星ネックレス

自身の代名詞ともいえるような、長年愛され続けている作品をもつ作家さんに、その作品の誕生秘話を語っていただく連載企画。第13回目は、ガラスアクセサリー作家のトキシル・ハさんと「私だけのちいさな星ネックレス」の登場です。

トキシル・ハ
ガラスアクセサリー作家。フュージング技法ならではの、美しい重なりを活かした作品を制作。
https://minne.com/@tokisiruha

吸い込まれるほどに美しいガラスアクセサリーを手がけるトキシル・ハさん。窯で800度に熱して溶かした「フュージングガラス」を重ねてつくられる作品は、唯一無二の輝きを放ち、たくさんの人を魅了し続けています。中でも、ガラスの中に金箔を組み合わせた「私だけのちいさな星ネックレス」は再販を繰り返す大人気作品。


今回は、そんなトキシル・ハさんの「私だけのちいさな星ネックレス 」ヒストリーに迫りました。


発想の源


 

「私だけのちいさな星ネックレス 」が生まれたきっかけをおしえてください。

ガラスの中に浮かぶ金箔は、まるで世界地図のよう。

トキシル・ハ
もともと金属を勉強する高校に通っており、当時はシルバーリングや金属のオブジェをつくっていました。ものづくりを学ぶ中で、徐々にガラスの魅力に惹きつけられるようになり、大学ではガラスを専攻。ガラスのアクセサリーは大学を卒業してからつくるようになったんです。

ある日、透き通るガラスにキリッとした表情を取り入れたいと考え、金箔といっしょに溶かしてみることに。それが思いも寄らない模様をつくり出し、これをネックレスにしたらどうなるだろうとワクワクしながら制作したのがはじまりです。

 
ガラスの中に金箔、という発想は、もともと金属を勉強されていたからなんですね。

トキシル・ハ
そうですね。「どうやって思いついたのですか?」と聞かれることも多いのですが、わたしにとっては、ガラスと金属を組み合わせることは自然な流れだったのかもしれません。
 
異素材の組み合わせには、いろいろな苦労がありそうです。

トキシル・ハ
高温で溶かしたガラスを重ねてつくる技法で作品を制作しているのですが、まずちいさな球体をつくることが最初の難関でした。ガラスで思うように厚みを出すことはとても難しく、潰れた形になってしまうことがほとんど。まん丸に仕上げるまでに何度も何度もつくり直しましたね。

重ねるガラスの色や金箔の分量も、安定するまで何度も何度も窯の中で溶かしました。電気窯で溶かし、時間をかけて冷ましていき、実際に取り出してみてはじめて金箔の模様がどうなっているのかが分かります。時間をかけた試行錯誤がしばらく続き、やっとの想いで完成したことを覚えています。


最近ではカラーバリエーションを増やしたり、ネックレスのチェーン部分を革紐にするなど、お客さまからのご要望にもお応えできるまでになりました。


かけがえのない一品に


 
これまで、作品をつくり続けてきた中で印象的なできごとをおしえてください。

トキシル・ハ
地球のような美しい青さが特徴の「私だけのちいさな星」には「another earth」という名前も付けているのですが、これには「地球のように見えて、でもすこし違う、どこかの地形に似ているけどどこの地でもない」そんな意味合いを込めているんです。

あるお客さまから「産んであげられなかったあの子を想ってこのネックレスを購入しました」とメッセージをいただいたことがありました。その言葉は、わたしにとって衝撃的で悲しく、それでも手にとっていただけたことがうれしくもあり、複雑な気持ちになりました。

小さなガラスの中に大切な誰かを乗せて、今日もネックレスを身につけてくれているのかなと思うと、自分がつくり出すひとつひとつの星が、かけがえのない一品であるように感じました。他にも、みなさんさまざまな想いをもって購入し、メッセージをくださいます。胸の内を伝えてくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいです。

 

ひとつの作品が、誰かにとってかけがえのない一品であるということを思うと、作り手としても、いっそう作品への想いが強くなりますね。

トキシル・ハ
そうですね。どの作品にも個性があり、同じものは二度とつくれないので常に「納得できる表情になるまで最後まで綺麗に磨き上げたい」という気持ちを持って制作しています。

誰かの「希望」に


 
「私だけのちいさな星ネックレス 」はトキシル・ハさんにとって、どのような存在ですか。

トキシル・ハ
子どものような存在?大切な仕事のパートナー?と考えたことがありますが、どれもしっくりこなくて。あるとき、ふとファインダーを覗き込んだら、あまりにも美しい瞬間があり、そのとき、わたしにとってこの作品は『希望』なんだなと思いました。

時間に追われて机に向かう深夜にも、最後にはキラキラと美しい輝きを見せて癒してくれます。自分がガラスの美しさの虜になっていることに気が付きました。

どんなに苦しい状況があっても、このガラスたちの輝きを、ずっとそばで見ていられるのならいいのかもしれないと思える存在です。

 
最後に今後の夢と新作情報をおしえてください。

トキシル・ハ
7月7日の七夕に、「7つの星」企画と題して、私だけのちいさな星ネックレスを7点出品します。今まで販売していなかった新しい色の星も出品しますので、ぜひご覧いただけたらうれしいです。あなただけの星となって、永く身につけてたのしんでいただけたら幸いです。

幻想的でありながら、生命力のような力強さも感じさせる「私だけのちいさな星ネックレス」。ガラスと金箔が織りなす独特の美しさは、手にする人にとっての特別な一品、かけがえのない一品になること間違いなしです。ぜひギャラリーページへ足を運んでみてください。


次回の作品ヒストリーもおたのしみに。


作品ギャラリーを見る

 
取材・文 / 西巻香織

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