インタビュー

アートプランター作家echidna-jinさん「となりで生み出す、夫婦それぞれのものづくり」

「その瞬間」にたどり着くまでの物語を、思わず想像してしまう作品があります。echidna-jinさんが手がける造形プランターは、まさにそんな「物語を切り取って閉じ込めた」ような作風が魅力。”心の栄養になるような造形”をコンセプトに、奥さまといっしょに制作活動に没頭する、echidna-jinさんのアトリエにお邪魔してきました。

その背景に流れる「物語」や「時間」を、思わず想像してしまう作品があります。echidna-jinさんが手がける「造形プランター」はまさに、そんな「物語を切り取って閉じ込めた」ような作風が魅力。”心の栄養になるような造形”をコンセプトに、奥さまといっしょに制作活動に没頭する、echidna-jinさんのアトリエにお邪魔してきました。

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リビングに設えられたギャラリー

みずみずしいカボチャから栄養をもらうようにして咲く鮮やかな花々。昨年9月に実施した「花材を使ったハロウィンアイテムコンテスト」で「minne賞」を受賞されたechidna-jinさんの作品です。

echidna-jinまさに、かぼちゃが花に栄養を与えているようなイメージで制作しました。どの作品もすべて、最終的にはひとつの世界観に持ち込めればいいな、という思いがあります。

陽のよく当たるあたたかな一室。大きな窓に沿うように壁一面に設えられた棚には、「同じ世界」をつくり上げる作品たちがずらりと顔を揃えています。

完成した作品は、ここにあるものがすべてですか?

echidna-jin
基本的にはそうですね。いちばん左の1列は妻の作品です。それぞれ「echidna-jin」「Aya」という名前でギャラリーを持って、それぞれのアートプランターをminneで販売しています。売れると、この棚から作品がひとつずつ減っていく感じです。ほとんどが一点物なので。

手元から離れるさみしさもあったり。

echidna-jin
そうですね(笑)出て行くときは、すこしあるかもしれません。家に永くいたものは特に。「不出来な子ほどかわいい」ではないですけど、「ついに」という気持ちはありますね。たいせつにしていただけるのは、とてもありがたいです。

今回、実はどうしても実物を拝見したい作品がありました。

echidna-jin
これですね。

名前は『care pot (talk)』。「機械仕掛けの植木鉢」というコンセプトがあるそうです。

echidna-jin
植物の生命力を機械の原動力にして、自動でお水をあげたり、肥料をあたえたりすることができる機械仕掛けの植木鉢をイメージしてみました。蓄音機のように伸びた管からは「おはよう」とか「きれいだね」という言葉をかけるので、博士がいなくなっても植物が元気に育ち続ける永久機関…そんなことを考えて制作した作品ですね。

写真で拝見したときから、星新一さんの小説に出てくるようなSF的魅力を感じていました。未来の機械なのに「切なさ」も感じるような不思議な作品ですね。

echidna-jin
もしかすると、「博士」は自分自身なのかもしれませんね。どこかでイメージを重ねて取り組んでいる、というのはあると思います。いつか本物がつくれないかなあ、なんて考えています。

echidna-jin
つくりたいものは山のようにあって、どれから手をつけるかというのは気分やタイミング次第、といったところがありますね。寝かしたまま消えてしまうものも当然ありますが、アイデアはたくさんあるんです。それをどれから実現するか、を考えるのもたのしいですし、いつも作品のことを考えていますね。起きている時間のほとんどは制作活動に費やしているかもしれません。

手づくりのアトリエ

場所を二階に移すと、緑が生い茂る制作場が広がっていました。

この天井もお二人で装飾されたんですが?

echidna-jin
そうですね。ちょっとずつ枝を拾ってきて徐々に増やしていってるので、また数年後に見ていただけると、より完成に近づいていると思います(笑)相模川にふたりで車で出かけて拾ってくるんですよ。材料もインテリアも自然の中からふたりで集めてきたものが増えてきましたね。「このコケみたことないね!」なんて言いながら、河原でさがしてます。


echidna-jin
便利さはあまり重要視せずに、想像力をかきたてるような空間にしています。ここからすべての作品が生まれているんです。

大きな作品と小さな作品

ものづくりは、小さいころからのライフワークですか?

echidna-jin
そうですね。ただ本格的に踏み入れたのは美大に入学してからだと思います。高校生のときに、仲の良かった友人が絵の教室に通ってたんですよ。「お前も来ないか?」となんとなく誘ってもらって通いはじめたのがきっかけでした。美大の存在もそこで知って、「じゃあ受けてみようかな」といった具合だったんです。

echidna-jin
油画科を専攻してたんですが、3年生からは立体をつくるようになっていました。当時は、なんとなく「平面」より「立体」の方がかっこいいものに思えたんですよね。1本2,000円近くもする油絵の具を買えない、という経済的な事情も多少あったんですが(笑)

立体は、どんなものを制作されていたんですか?

echidna-jin
すごくコンセプチュアルなものをやってましたね。音楽のCDを熱で変形させてつくった作品とか、人力で動かす肩たたき機の展示とか。卒業してから、造形の道にすすんでいったという感じです。

echidna-jin
当時は、フィギュアが全盛の時代で。フィギュアをつくる会社で1年半くらい勤めていました。アニメのフィギュアをつくることも多かったんですが、忙しすぎてそのアニメを見ることができないので、自分がいったい何をつくっているのかわからない、という(笑)。そのあと、持ち込んだ企画が採用されて漫画家としてメジャーデビューしたこともありました。

おどろきの経歴です(笑)

echidna-jin
ただ、ページ数に合わせて物語を削って縮める作業がとても大変だったり、充分に稼げるわけでもないのでアルバイトとして働きはじめたのが、今も勤めている造形会社だったんです。そこで妻とも知り合いました。

どんなものを制作されているんですか?

echidna-jin
テーマパークのパレードで使われる「フロート車」や「バージ船」と呼ばれるようなものや、オブジェなんかを制作する会社ですね。オフィスの内装・装飾や、めずらしい形をした一点ものの家具をつくるような仕事もあります。

比較的大きいものをつくることが多いんですね。

echidna-jin
そうですね。minneで販売させてもらってるものも、最初は「息抜き」のようなものだったんです。会社で大きいサイズのものをたくさん制作するので、家では趣味として小さいものを自由にリラックスしてつくるような。今は、徐々に会社勤めの割合を減らして、作家活動を行っているようなかたちです。

大きいものの制作と小さいものの制作は、ご自身の中で取り組み方がちがいますか?

echidna-jin
やっぱり、誰かといっしょにやるのと、自分ひとりでやるのは大きなちがいを感じますね。複数人で制作するときは、お互いの考えが交わるいい着地点を探さなければいけないシーンも多いので「思い通り」とはならないですよね。またそこが、おもしろかったり。どちらの制作もたのしいですね。両方あるからバランスがいいというのもあるかもしれません。

制作過程でいちばんたのしい工程はどこですか?

echidna-jin
寄せ植えかもしれませんね。今までやってきたことと、全然ちがうんですけど。きっと、作品の構想段階から「こういうものを植えよう」って考えながらつくってるんですよね。そこがうまくイメージ通りにはまった時や、想像を超える良いものができる瞬間があるのが寄せ植えなんですよね。とてもたのしいです。

奥さまにも伺ってみました。

Aya(奥さま)
わたしも最後の寄せ植えが好きなんです。造形や塗装用のマスクを外して、寄せ植えをはじめるときは本当に爽快で。できあがっていくのもうれしいですね。

となりで生み出す、それぞれの作品

作品について、たがいにお話をされたり、刺激を受けたりすることはありますか?

echidna-jin
すごく多いですね。ほとんど生活の中心になっているので、食事をしていても話すことも半分以上は制作のことかもしれません。客観的な意見を求めて「どっちがいいと思う?」と聞くこともありますし、「彼女にはどう見えてるんだろう」と確かめたくなることもあります。自分だけの感覚で続けているとわからなくなってしまうこともあるので。反応をもらって、もう一回考える、みたいなことはよくやりますね。

おたがいに完成したものを見せ合うのもたのしい瞬間ですか?

echidna-jin
となりでいっしょにつくっているんで、途中もすべて見えてしまってるんですよね(笑)

Aya(奥さま)
本当に24時間いっしょなんですよ。

echidna-jin
意見を言い合って、気まずくなることだってたくさんあります。

echidna-jin
だけど、となりにいてくれて、いっしょにものづくりができるっていうのはすごくたのしいですよね。感謝しています。彼女の作品の良いところは、素直なところ。自分のやりたいこと、つくりたいものが真っ直ぐ表現されているように感じます。

Aya(奥さま)
彼の作品は、とにかく広がっている世界が大きいですね。「どうやって思いついたんだろ?」って不思議に思うことも多いです。となりでたくさん刺激をもらっていますね。「小さいものをつくってみたら?」と提案してくれたのも彼でした。「不思議だな」って眺めていたものも、すこし手伝うと愛着が湧いてきたり。そういうところもおもしろいですよね。


世話の行き届いたグリーンやインテリアも、それぞれが、おふたりでこつこつと作り上げてきた丁寧な作品のように、しっくりとそこに並べられていました。

半年先のものづくりまで

作品を「売る」ことに関するよろこびはありますか?

echidna-jin
やっぱりすごくうれしいですよね。共感してくれる人がいるんだ、という感動に似た感覚があります。リピーターとして何度も買ってくださる方も多いんですよ。レビューやメッセージというのも本当に励みになります。お客さんの声を直接聞けるというのは、とてもありがたいことなんで。なにが良くて、なにがだめだった、というのはたいせつにしたいところですし、そういう声があったからやってこれたんだと思いますね。

Aya(奥さま)
最近、写真付きでレビューしてくださる方も多くて。最初はびっくりしました。すごくうれしいですね。「SNSで紹介させていただいてもいいですか?」と思わずお声がけしてしまいました。「こういう風に飾ってくれてるんだ」と知れることは、やっぱりいちばんうれしいので。

今後、実現されたいことをおしえてください。

echidna-jin
変わらず、マイペースに取り組んでいけたらいいなと思います。つくりたいものは数え切れないほどで、実はもう半年先くらいまで決まってるんです(笑)。もちろん、ひとつひとつ手作業なので、あまり多くはつくれないんですが、だれかの心の栄養になるような造形をひとりでも多くの人のもとに届けられたらと思います。

Aya(奥さま)
「次はこういうのつくりたい!」って、絵に描いて、いろいろ説明してくれるんですよ。いつも「あれ? このあいだ話してたのは?」と思いながら、「また言ってるな」って(笑)。次から次へと制作したいものが溢れてくるようで。

echidna-jin
そうなんですよ。あれ…そういえば彼女のはあまり聞かないですね。

Aya(奥さま)
アイデアはありますが、わたしは自分の中で秘密にしてあるんです(笑)。


プロフィール

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echidna-jinさん

デザインから原形制作、塗装、寄せ植えまで、時間と愛情を込めてひとつずつ作品を生み出すアートプランター作家。

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