木々に咲く山桜、遠景にそびえる山脈、そこから流れ落ちる銀の滝。
箱の周囲をぐるりと一周するように四季と自然の流れを織り交ぜた非常に緻密な蒔絵小箱のご紹介です。
箱書にある「山彩蒔絵」のとおり、春の風景を象徴する桜の木々と動きのある水流が見事に表現されております。
遠近法を巧みに用い、滝が流れる様子は銀蒔絵で線状に描かれ、時間の流れをも感じさせます。
銀は経年と共に燻銀へと変化し作品の表情もまた深まります。
手前の面では、流れついた水が波紋となり、右面をめぐり、背面へ、そして最後は左の面へと流れていく構図。
その終点に力強く立つ桜の木が、まるでその水を受け止めるように描かれています。
一見豪華な蒔絵箱でありながら、細かな梨地仕上げが見る者を引き寄せ、近づいて初めてわかる繊細さに息を呑むことでしょう。高蒔絵により立体的に仕上げられた桜と背景の山々との距離感も絶妙です。
箱書きを見ると昭和戦後の作ではないかと詮索しますが、蒔絵の仕上がりは明治の技術にも通じる為、明治作の蒔絵に後付けで共箱を添えたようにも見受けられます。
西洋の画法との融合部分に着目しますと明治時代ならではの工芸的成熟が見受けられます。
名も無き職人の魂のこもった一点。飾るだけでなく、自分だけの時間を包み込むような存在として、末永くご愛用いただけるかと存じます。
用途は所有された方のご自由にお使いください。
綿を敷いて腕時計を収める方もおられます。
贈答用には不向きですが(わかる方でしたら喜ばれます)
ご自身のために選ばれるべき、真に上質な工芸品です。
https://minne.com/items/43405428