++ともしびの森林++

++ともしびの森林++

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季節は秋に差し掛かってきました。 銀杏の実は落ちて、蝉の声が鳴虫の声に変わり 雲の形も激しさを潜め、薄く細くなっています。 一方、夏の日差しで森林は豊かさを増し 大きく育った木々には沢山の果実が実ります。 今日は、ある場所に存在すると言われる 奇妙な森とその住人についての物語です。 年中葉の落ちることも染まることもない ほぼ黒に近い深緑の常緑樹が茂る森林。 面積としては広くはありませんが、 入り口から既に異様な暗さと不気味さを放つため 勝手に恐ろしがって誰も近づかない場所。 しかし、夜になるとその一帯は宵闇に溶け込み 地面に接した星空のように煌めきだすのです。 その煌めきの正体は、火や電気ではなく 光る鳥や蝶の羽をした蛍など自然の生き物で 他にも、獣の瞳であったり、木実や種など 夜になると発光する性質の生き物や植物が 独自の豊かな生態系を築いており お互いに光を呼応させて煌めいているのです。 その「ともしびの森林」には謎の存在がおり 近隣の村では「黒の守人」と呼ばれています。 人、と言いきるのは難しく、まるで 「黒い硝子を人型にしたようなもの」だそうです。 守人は言葉を話さず表情もありませんが、 生き物たちが暮らし易いよう木を整えたり 落ちた鳥や蟲を掬って巣に戻したりなど その行動から「黒の守人」と いつのまにか呼ばれるようになったのです。 ある夜、誰も足を踏み入れたがらないその森に 獣を追って入ってしまった猟師がいました。 獣を見失い、辿り着いた場所は森林の最奥。 クレーター形の大きな丸い凹みがありました。 凹みには草が心地よさそうに生え落ち着いており、 大昔に何かがこの場所に落下したような 異様な雰囲気だけが残されていました。 その凹みの中心には巨大な黒い岩があり、 硝子のようなつやつやの表面に、文字や線に似た 青緑色の光を点滅させながら浮かび上がらせて 何かに信号を出すかのように鎮座していました。 数分眺めていると、その点滅光に応えるように 生物や植物が輝きを返していると気が付きます。 黒岩の側に守人がやってきました。 猟師はまた、あることに気が付きました。 -守人と黒岩は同じだ- 黒岩の艶のある黒い表面と守人の肌は そっくりで、まるで分け身のようです。 それに気がついたところで守人は何も語りません。 よく見れば、守人の黒い顔の奥には 一対の翠の灯がありました。 昼間だと見えないほどの微かなものですが、 今の暗さのためか瞳のように見えたそうです。 その時、何故か不思議と分かりました。 守人に着いて歩けばいつかは外に出られると。 その黒い姿が木々の間を抜けると 光る鳥や蟲、植物たちが、嬉しそうに歌うように その歩みと足取りに反応して光っていました。 猟師が森を抜けると、守人はまた 木々の間を縫って戻っていきましたが しばらくはその姿が今どこを歩いているのか、 しっかりと分かるほどだったと言います。 この森林を上から見ると、 きっと、動く星座図のように見えることでしょう。 不思議な光る者たちが集まって 互いに身を寄せあって出来たともしびの森林。 言葉などなくても何か別のコミュニケーションで 彼らは強く繋がっているのかもしれません。 それでは、また。

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