夏は終わりを迎えつつあります。
時折涼しい風が首を撫で、
清々しい空気が戻りかけています。
夏は、多くの命が生まれ、散ってゆきます。
植物や草花など小さなか弱い生命が
ほんの瞬きほどの時間でその輝きを終えます。
しかし、果たして魂は
本当にその夏で朽ちてしまうのでしょうか。
「肉体は滅び形を失っても魂は滅びず存在する」
と考えた、とある科学者たちは
小さな生き物たちを集めて生体実験を行いました。
以前のレター「極彩異形の獣たち」にて
お話した7匹の獣たちを生みの親でもある彼らは
今から数世紀ほど昔、
その業の深さから祖国を追われます。
その実験の数々が命を弄ぶ行為と見做され
異端だ、倫理がない、非道徳的と罵られながらも
彼らはどうしても、いずれは必ず訪れる
「滅び」を理解出来なかったのです。
命と魂の再利用の実験に執着した彼らは
例の凍てた星へと数人で移住し、
誰にも邪魔されることもなく
7つの生き物の魂を新しい器に入れ
魔境の物怪を作り上げていきました。
それでもまだ、満足はできない。
やがて、その長い年月の中で、
彼ら自身の肉体に徐々に衰えが見え始めると
とうとう彼らは自らの肉体までもを放棄し
その強い結束の中でひとつの意志=魂となり
人という形を失ってもなお、
生命の追求を続ける永遠の存在へと進化します。
科学者たちを咎め罰せる者は
もはや、どこにも居ませんでした。
皮肉なことに彼らを追い出したはずの祖国は
先に滅びを迎えていたからです。
あたりを漂うだけの思念体のみとなっても、
まだ更なる進化を求め、実験は続きます。
時は日々確実に刻々と流れましたが
新たに8体の物怪が生まれたようです。
蛍に似たもの
魚や爬虫類、兎や鳥のようなもの
どれも美しい瞳や体表をしていますが
狂気を孕んだ部分があり
見た人をその狂気の底へと誘うような
甘美で鮮烈な魅力があります。
例の科学者たちがこの物怪を作った後
何をさせたかったのかは分かりません。
しかし、この物怪たちもまた
どこかへ向かって歩み始めました。
それはまるで科学者たちの魂を宿らせたようで
ただ無心に、何かを求めて。
この物怪たちが辿り着く結末を
見届けたくて仕方がないのですが、
恐らくは不可能でしょう。
彼らにとっては私の命の輝きなど
夏の虫と同じようにほんの一瞬なのですから。
それでは、また。