店主の弥光で御座います。
夏も盛りです。
熱い日差しが注ぎ、あらゆるものが輝いています。
この度は日に透けて輝く7色のコインを
古い賭場の跡地から見つけた時の
少し、不思議な話です。
その場所は歴史的な遺跡の一部で
昔は裕福な一部の貴族たちが集まり
娯楽として賭け事を楽しんでいたそうで
鍵付きの扉がついた隠し部屋でした。
その隠し部屋へ何故入ることが出来たのか。
天井に大きな穴が…
まるで精巧な機械を使って切り取られたように
正方形の穴が堂々と開いていたのです。
鍵は意味を成していませんでした。
賭場の中は、ある日突然人が消えてしまったように
当時のカードやルーレットらしきものが
つい先程まで使われていたと分かる状態のまま
砂埃を積もらせテーブルの上に広がっていました。
コインは壁に据え付けの棚に陳列され
ディーラーが訪れた客に手渡すためか
10枚ずつ程度に分けられ綺麗に積まれています。
アラベスク模様のコインの積まれた棚は
コインが七色の小さなガラスタイルのようで
それを枠に合わせ自由に敷き詰めたように
キラキラと美しい前衛的な壁画のようでしたが
棚に施されたテーブルと揃いの彫刻とは
時代も趣向もかなり違うように見えました。
興味本位でテーブルの引き出しを開けますと
その中には棚にある七色のコインと同じ模様の、
おそらく鉛か鉄かと思われる鈍い銀色をした
古いコインが数多くストックされていました。
手に取った瞬間、例の穴から光が差してきました。
まるで空の絵画が天井にかけられているような
あまりにも整いすぎた正方形の光で
例の棚にあるコインたちは七色に透けています。
しかし、この穴。
切り口の新しさと美しさから見るに実に無機質で
切り取られたあとの瓦礫も周りに一切ありません。
…気づけば手のひらにあるコインの淵から、
赤い色が微かに覗いていました。
もしやと思い、爪で軽く擦れば鈍い金属質が剥がれ
ルビーのような表面が姿を見せました。
果たして当時の貴族たちは
コインの本来の姿を知っていたのでしょうか。
そしてどこへ消えたのでしょう。
吸い込まれそうな四角い空はやたらと静かで
私も早く賭場を去ることにしました。
謎の存在によって自分を暴かれないうちに。
其れでは、又。