++羽と紙++

++羽と紙++

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店主の弥光で御座います。 そろそろ夏休みになりますね。 子供たちの声が蝉の声とともに聞こえる季節です。 この度は、とある学校のとある生徒たちが 自由研究として作った魔法筆記用具について お話をしていきたいと思います。 四人組の彼らは11歳になったばかり。 研究テーマは「秘密文書」。 この位の歳の子たちは他の人には内緒の 自分たちだけの組織やルールを作りたがります。 優しく博識な子、明るくアイデアの光る子 良識と勇気を持つ子、自にも他にも厳しい子 それぞれが意見を出し合って作ったものは 案外、普通の羽ペンでした。 見た目だけは。 普通の手紙が書いてあるように見えますが その手紙を羽ペンの羽の方でさっと撫でると 便箋とインクの色が変わり、 本当に伝えたい秘密の内容が浮かび上がるのです。 羊皮紙に黒のインクがその学校の「普通」でした。 多数の生徒たちから見て何の変哲もない手紙が 羽で撫でると、たとえば 黒地の便箋と鮮やかな氷碧の文字に変わったり 白い便箋と雪のような水晶紫の字に変わるのです。 便箋の色とインクの色は人の個性に左右され ひとつとして同じものはありません。 羽で撫でた者にのみ誰が書いた手紙か 伝わってくる、のだそうです。 魔法の羽が出来上がった時 彼らは飛び上がるほど嬉しかったのですが 結局この研究を発表することは やめてしまったそうです。 「だって、仕組みを誰かに言ってしまうと 『秘密文書』にならないもの」 数年は机の引き出しにしまっていたそうですが それが突然必要になる日が来るとは、と 17歳になった彼らは笑っていました。 羽ペンを使った時本当に蘇るものは 文字やその内容よりも その時の思い出なのでしょう。 自分だけの美しい紙とインクの色を思いながら この夏は何か書いてみるのも いいかもしれませんね。 其れでは、又。

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石と硝子を紐で編む店

弥光商店
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