春がやってきました。
花や草が芽吹きだし、夏に向けて徐々に
命が溢れ賑やかさを増してきます。
しかし、決して穏やかでない
むしろ危険視すべき命の数々も
同時に何処かで生まれているのです。
歪んだ空の向こうへ
地底を潜り山を幾つも登り
次元を超えた果てにある
かつて破滅した星の凍てる空気のなか
荒れ果てた瓦礫の影で
目覚め始める獣がいます。
「異形」という言葉は
例えば我々の知る・想像する基本的な形から
逸脱したものに与えられる称号です。
どこか「知っている部分を残している」からこそ
「異」であり、恐ろしくも美しくもあるのです。
極彩色に輝く肌と
不気味に発達した謎の器官を幾つも備えた
魔境に棲む7匹の獣たちは
常から達して得られる力と美を誇りに
何十年も生き続けると謂れています。
…其の星を訪れ、彼らの姿を見ました。
実際見てみれば案外おとなしく眠っていて
シンと音もなく鎮まっている間、
少し離れた岩影から覗くように観察しました。
蟻の顎をしたもの
黄金虫の表体をしたもの
珊瑚の肌をしたもの
どこかで見た、しかし複雑で説明の難しい
ある種芸術的の域に達する姿です。
穏やかな様子で見られて良かったと
安堵した数秒後のこと
蛾蝶類特有の翅粉が頰を撫で掠めました。
…彼らはとても巨大なので
ここにいる私に気づいていないようです。
池ほどもある足爪の横で
呼吸を止め、顔を見上げると
マゼンタピンクの何重にも生えた牙の上
宝石のような翠の目の奥で、
豆電球がチカチカと不規則に点灯していました。
茫然と手放した意識を引き戻したのは
通り過ぎる巨大の内部から確かに聞こえる
幾人もの人の会話と、低い笑い声でした。
静まり返っていた獣たちは
ちょうど湯が湧くような音を鳴らしながら
電車のドアが開くときの緩慢な動きで
ゆっくりと動き出し目を光らせると
何かに飢えて求めるように
一方向に向かい歩き始めました。
魔境に棲む獣たちは
何のために生まれ
ここを出て果たしてどこへ行くのでしょう。
究極の美を求めて何かを作り続ける
忘れ去られた人々の夢のあと、
その先には何があるのでしょう。
分かっているのは
彼らもいつかは滅ぶということ。
しかし
滅ぶ時がいつなのかは
誰も分からないことです。
それでは、また。