++鋼鉄の要塞++

++鋼鉄の要塞++

公開
店主の弥光で御座います。 まだまだ寒い日が続いております。 寒い日に思い出すのは、熱さ。 時代遅れの産業というのは不思議で その当時想像し得た精一杯の「未来感」を 古臭くて使い物にならない物体の 一つ一つから感じられます。 昔は当たり前だったのに、 失われた文化が今でも動いている様子を見ると 逆に何故か高精度で高技術に思える。 鉄と油の香りに満ちた機械要塞都市の中は そのようなところでした。 時が停まっているゆえに世界から取り残され 退化し続けると同時に浪漫をとどめる場所です。 街の全てのものが石炭や炎で動く仕組みのせいか 冬だというのにのにやたらと暑く、 脱いだ外套の袖で汗を拭うほどでした。 見るもの全てに懐かしさと驚きが溢れていましたが 一番の驚きは見上げるほど巨大な鎧を着た戦士 、の様なもの…が歩いていたことでしょうか。 というのも、鎧と隙間に目を凝らすと 単純かつ大量の歯車の機械仕掛けが詰まっており 腹部の巨大な融合炉から、一歩動くたびに 火の粉と煙を上げていたのです。 鎧の内側は赤く熱され、焦げていました。 プログラムされた電子メカニックとは程遠い 機関車やタイプライターのような音を聞きながら 街の人にその鎧のことについて尋ねますと 別に珍しくはないよ 身体をどこかしら改造しないと この煙の中で生きていけないからなあ あの鎧の胸の接合部から見える ゆっくりと光って脈打つものは たとえ歯車やボルトで繋がっていても 私たちと同じものだったのでしょう。 技師だと云うその人が「土産にしたらいい」と 譲ってくれた部品は、考えてみれば あの要塞に住む方々の身体の一部になる… はずのもの、だったのでしょうか。 部品はまだ少しばかり残っています。 機械要塞都市の話は長く深いので どこかの折で続きを語りたいものです。 其れでは、又。

レターの感想をリアクションで伝えよう!

石と硝子を紐で編む店

弥光商店
作品を見る