毎日のようにコーヒーを淹れ、使い終わったフィルターとコーヒー粉を捨てる。
それを繰り返すうちに、
「何かに使えないかな。捨てるのは、もったいないな」
と思うようになりました。
環境のために何かを作ろう、というような崇高な考えから始まったわけではありません。
ただ、毎日捨てているものを、何か別の形で使えないだろうかと思ったことが、この作品のきっかけです。
ある日、漆の技法とつながった
漆には、紙を素地として形を作る「紙胎」と、漆を塗った表面に地の粉を蒔いて下地を作る「蒔地」という技法があります。
漆の研修でこれらの技法を学んだあと、ある日、食器を洗っているときに、ふと、
「コーヒーフィルターは紙胎に、コーヒー粉は蒔地につながるのではないか」
とひらめきました。
それまで別々に見えていたコーヒーの素材と漆の技法が、その瞬間、頭の中で自然につながり、制作を始めました。
漆の質感を、目で見るだけでなく、実際に口に触れて感じてもらいたい。
材料はコーヒーを淹れたあとに残るものなので、素直に、コーヒーを飲むためのコップを作ろうと思いました。
試行錯誤から生まれた形
最初から、現在の形ができていたわけではありません。
フィルターをちぎって型に漆で貼り重ねたり、一度細かくして型に貼り付け、整形してから漆で固めたり、折り紙のように折って形を作ったりしました。
しかし、型を使うと、漆で固めたフィルターを外す作業が難しく、一般的なコップのように整えても、どこかしっくりきませんでした。
コーヒーフィルターには、もともと折れやしわ、接着された部分があります。
それらを消すのではなく、素材が持つ形を生かした方が、この素材らしい器になるのではないか。
試行錯誤を重ねる中で、現在の非対称な口縁や歪みのある形が生まれました。
素材の痕跡を残す
制作初期には、フィルターの接着部を器の中に取り込み、完成後は見えないようにしていました。
けれど、あらためてフィルターを見たとき、
「せっかく最初からある部分なのだから、これも使えないだろうか」
と思い、剥がした接着部を漆で付け直して、小さな持ち手のように残しました。
一般的な取っ手ではなく、この器がコーヒーフィルターから作られていることを伝える痕跡です。
しわや歪みも、漆を重ねて消すのではなく、それぞれの器が持つ個性として残しています。
使う人にも、その違いを見たり触れたりしながら楽しんでもらえたらと思っています。
漆によって、捨てられるものが器になる
この作品で表したいのは、単に「リサイクルをして、物を大切にしましょう」ということではありません。
本来は捨てられるものが、漆の力によって、美しく、格好よく、しかも日常で使える器になる。
そこにも、漆という素材と技法の面白さ、そして可能性があると思っています。
コーヒーにまつわる素材から作られた器で、もう一度コーヒーを飲む。
一杯のあとに残ったものが、今度は新しい一杯を受け止める器になる。
そうして生まれたのが、
『漆×coffee』時間を味わうコップです。
この作品は「minne’sセレクト」に掲載されています。
作品の詳細はこちらからご覧いただけます。
https://minne.com/items/45848005